ステマ 22
日が少し傾いた屋良堰田高校のグラウンド。いかにも大騒ぎの後といった感じでグラウンドが荒れていた。土のグラウンドは生徒が踏みしめた足跡で埋め尽くされ、受け損なったチラシが所々に散らばっている。
そのグラウンドでゴミ袋を持った購買部の面々が後片付けに追われていた。
「ミニライブ、大成功! やったね! ほにょぽろーん!」
ステマがゴミ袋を手にその場で飛び上がる。
ステマの周りでは廣告と魅甘、それに一途が身を屈めてゴミを拾っているのが見える。一人遠くで田中が見るからに重い整地ローラーを引いてグランドをならしていた。
「ああ、後片付けがまだ残ってるがな」
ステマの声を背中に受けながら廣告がグラウンドのゴミと化したチラシを拾い上げる。
「ふふん! 何を言ってるの、ステマちゃん! 吾斗! 大成功かどうかは、明日のサンドイッチの売り上げをもって決まるのよ!」
魅甘ががばっと身を起こした。オデコと眼鏡を傾き始めた陽光に光らせ、何やら魅甘は電卓を叩き始める。
「大成功間違いなしだよ、魅甘ちゃん! あんなにお客さん喜んでたもの!」
「そうね。まあ、ステマちゃんは明日の握手会。大変だろうけど、頑張ってね。百人近く握手することになるから、覚悟しておいてね」
「任せて、ほにょぽろーん!」
「あれ、香川? 握手券付きのサンドイッチは、限定五十個じゃなかったか?」
ゴミ拾いに身を屈めていた廣告が上半身を起こして魅甘に振り返る。
「情けないわね、吾斗! 今更、そんなこと言って! 限定五十個で、五十個きっちり用意する訳ないでしょ?」
魅甘が電卓を廣告に突き出した。そこには『@』で単価が表示されており、その後ろに『×100』が表示されていた。
「はあ?」
「こういうのは、多めに仕入れて、少なめに宣伝するってもんでしょ? なるべく少ない方が飢餓感を煽れるし、実際には沢山売りたいもんでしょ? 何を営業失格なこと言ってんのよ!」
「なっ! 香川! お前な、それって――」
「詐欺ですわ!」
驚く廣告を押しのけるように同じくゴミ袋を手にした一途が話に割って入った。
「何よ、クラス委員長? 何か文句あるの?」
「大ありですわ、香川さん! ただでさえ巻き添えで一緒に後片付けさせられてるというのに! 私がかかわったイベントで、そんな数量水増しの詐欺のような行為! 見逃す訳にはいきませんわ! やっぱり廃部ですわね! こんな部活動!」
「何を、言ってるの! 数量限定品で、一個でも欠品や、不良品があったらどうるのよ? 少ない数で売るの? それこそ広告に偽りありだわ! 多めに用意するのは、むしろ企業努力よ! 購買部として褒められるべきだわ!」
魅甘が自慢げに胸を張る。
「言い逃れですわ! 仮にそうだとしても! 宣伝してる数の倍ってのは、どうなのですわ!」
「一人でも多くの人が、ステマちゃんと握手できる。消費者の利益にもなるわ。何もやましいところはないわよ!」
「開き直りましたわね!」
「ニーズに合わせてるだけよ!」
魅甘と一途がぶつかり合う視線でバチバチと火花でも散りそうに勢いでお互いの顔を突きつけ合わせる。
「百人と握手したら、廃部考え直してくれる? イケズちゃん!」
「一途です! それとこれとは話は別です! どうせ偏った男子だけでしょ! 百人と握手しても! 全校生徒の人気者になって! 私を納得させて見なさいですわ!」
「ぶう! やっぱりイケズちゃんだ!」
「私は一途です!」
「いいから、お前ら。早く片付けろよ。頑張ってこれかたさないと、帰るに帰れねえだろ? 明日に響くぞ」
廣告がそんな二人にげんなりとした表情を向けた。
「分かったわよ! エリちゃんも頑張ってるし! 私たちも頑張ろう!」
ステマが遠くに向かって手を振った。
「『エリちゃん』? 誰だよ? そんな名前のヤツ、居たっけ?」
廣告がステマが手を振る方に振り返る。そこには居たのは、廣告の他は魅甘と一途と遠くでローラーを引いている田中だけだった。
田中は成人男性が引いても力が必要そうな整地ローラーを軽々と引いてこちらに近づいてくるところだった。
「何を言ってるのよ、廣告。エリちゃんは、田中さんの名前よ」
「えっ? そうなのか。田中エリって言うのか、知らんかった」
廣告が己の横までやってきた田中をしげしげと見つめる。
廣告に見つめられた田中がぽっとほのかに顔を赤らめた。
「違うわよ、廣告。エリちゃんは、あだ名ってか、呼び名よ。田中さんの本名は――」
「ん、本名? エリじゃねえのかよ、ステマ?」
「違うわ。田中エリザベスさんよ」
「田中――エリザベス? エリザベス! この凶暴凶悪なおばはんがか?」
ステマに教えられた名前を素っ頓狂な声でおうむ返しし、廣告が目を白黒させて田中に振り返る。廣告はぱちくりとまぶたを開け閉めしながら、田中の筋肉質な体を上下にじろじろと見た。
「『おばはん』禁止!」
その廣告を目がけて田中が右手を薙いだ。長刀でもふるったかのような突風を巻き起こし田中の右手が廣告の全身をはり倒す。
「ぐわあっ! 何つうパワーだ!」
廣告が体をくの字に曲げてグラウンドの向こうに飛んでいった。
「どはっ!」
廣告ははり倒された勢いで地面に全身を打ちつけ、
「ぐえ! ごは! ぐえ……」
もんどりうちながらながら倒れグラウンドを転がっていった。




