ステマ 20
「皆、ほにょぽろーん! きてくれありがとう! 四曲目、どうだった? 皆が大好きな私の持ち歌! 『サブリミナル・ウィンク』は!」
桜ステマが曲名に合わせたのか演説台の上からウィンクをしながら皆に呼びかける。
ステマはそのまま演説台で汗を飛び散らせて手を振った。ペトペトさんと言われる肥満男性のそれとはまた違った陽光に爽やかに光るその汗。ステマの額からアゴにかけて滴り落ち、肩から指先にかけて飛び散るそれはステマの懸命さの現れのようにほとばしる。
その内の一雫がステマの白い太ももの上でも弾ける。『広告募集中』と書かれたシールの上を滑り落ち、ヒザからスキーのジャンプ台よろしく飛び出し弾けた。
「うおおおぉぉぉぉっ! ステマちゃん! 最高! ほにょぽろーん!」
怒号と化した生徒の応える声がグラウンドに響き渡る。興奮しきりの生徒の中にはステマに合わせようとしてか片目をつむるものもいた。その多くはまともなウィンクにならず痙攣めいた筋肉の引きつりをそのまぶたの端に浮かべていた。
「うんうん。いいわよ、いいわよ」
その様子にオデコと眼鏡を爽やかな陽光に怪しく光らせて香川魅甘がうなづく。魅甘はステマが乗る演説台の横で腕に『購買部』の腕章をつけて立っていた。そしてその手には何やら宣伝文句の踊る紙片を持っている。
更にその魅甘の隣ではパート従業員の田中が同じ紙片を持って待機していた。
「ありがとう! ほにょぽろーん! さあ、皆が知ってる通り、私は本当はステマリン王国の王女なの! 今はその世界から飛ばされて、こっちの世界で普通にこの屋良堰田高校に通う女子高生してるわ! でもね! 皆が応援してくれるてるように、アイドルでもあるの! 皆のアイドルとして頑張ることで、王女として! 将来の女王として! 皆に慕われるよう人間になれるよう頑張ってるの!」
「うおおおっ! ステマちゃん! 健気! ほにょぽろーん!」
「いつか向こうの世界で悪い大臣を倒して! 皆を幸せにするのが私の夢!」
「おおおおっ! ステマちゃんなら、できるよ!」
男子生徒を中心に地響きすら起こしそうな声援の声が沸き上がる。
「ありがとう! 皆! 私に会いたくなったら、購買部に来てね! 皆の来店が、私に力をくれるわ!」
「うおおっ! いくよ! ステマちゃんに会いに! ほにょぽろーん!」
「はいはい! ステマちゃんに会いにきて下さいね! 明日は何とただ会えるだけじゃないです! 購買部のアイドルステマちゃんと握手できる券がついたサンドイッチ! 驚きの限定五十個で、握手券付きサンドイッチが購買部で明日発売ですよ!」
会場が一際盛り上がった。そうと見たのか魅甘が手に持っていた紙片を空に向かって放り投げた。
ステマの目の前で紙吹雪よろしく宙を舞う紙片。それの紙面には明日の日付とサンドイッチのイラストとともに『SALE』の文字が踊る。
「うおおおっ! S・A・L・E! YOU SALE SUTEMA!」
ステマの声と魅甘の宣伝文句に踊らされて生徒達がグラウンドを踏みしめながら応える。
「ふしゅるぅ……」
田中が邪気すら含んでいるような吐息とともに持っていた広告を手近な生徒に押し付けるように手渡していった。
生徒達は田中のその凶悪な筋力で胸元にチラシを押し付けられむせたり倒れたりしながらそれぞれ受け取っていた。
「ちょっと! 派手にやり過ぎじゃありません? 放課後まで居残って! やってることはただの購買部の宣伝じゃない!」
そんな様子にクラス委員長の御崎一途が眉間に真っ直ぐなシワを寄せた。一途はこちらは苛立たしげに足を踏みならす。
「正当な部活動よ! ほにょぽろーん!」
「ぐふぅ……我の生活の為……愛する旦那様の為……残業上等……」
一途の抗議を他所に魅甘と田中は次々とチラシを生徒に手渡していく。
「ああ! もう! 皆好き勝手して!」
「では、次! 聞いて下さい! 私の新曲! 『君のハートにオプトイン!』
一途の苛立を気にも止めず壇上のステマが改めてマイクを口元に持っていく。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ! ほにょぽろーん」
「おお。やってるやってる」
そんな怒号のような声援渦巻くグラウンドに廣告がひょっこりと現れた。廣告は生徒の人だかりの背後から覗き込むように顔を突き出した。
「おや、吾斗くん。もう罰当番の方はいいのかい?」
その廣告に一人の男性教師が振り返った。
「あれ? 幽霊――もとい! 神輿先生」
振り返ったのは罰当番を命じた当事者の神輿だった。こちらに振り向く神輿に廣告が近づく。
「罰当番の方は桐山が科学的にバケツに油汚れを漬けてますよ。科学的に任せて下さいとか言ってましたから、任せてきました。今は、パワーなストーンに関して、菊池先生に質問攻めに遭いながら、汚れが落ちるのを桐山が科学的所要時間とやらで待ってます」
「パワーな? ストーン? 何だいそれ?」
「置いてあるだけで、幸運が訪れるような石のことですよ。桐山が『そんなもの、科学的にありえません』って、突っぱねて、菊池先生が『少しは効果があるんでしょ? 科学で証明できないことも世の中にはあるんでしょ?』って、すがりつこうとする会話が、延々に続いてました」
「はは……菊池先生らしいですね……」
神輿が困ったように頬を指で掻く。
「そうッスよ! 桐山もいい加減なところでやめときゃいいのに。語りたいみたいですよ、科学的な話は。〝永遠に溶けない氷〟だと言われていた石の話では――」
だが次に続いた廣告の言葉にその指はぴたりと止まり、
「『永遠に溶けない氷』!」
神輿は驚いたように廣告に振り返った。




