表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/48

ステマ 15

「ぜぇぜぇ……怖かった……まだ、まぶたに焼きついてやがる……」

 廣告はまたもや一階分階段を上がって夜の生き物の襲撃を逃れたようだ。それ以上上に上がる階段が途切れた階段の上で、廣告は壁に手をついて息を整える。

「落ち武者に、お菊さんに、ペトペトさん……それなりに収穫があったわね……」

 魅甘が床に突っ伏しながら呟く。声はするが体はぴくりとも動かなかった。

「実際はセミロングに、ジャガーに、ペドペドさん……残念ながら、全校生徒が既に知ってる人間ばかりだな……」

「廣告。じゃあ、実質収穫なし?」

 ステマも階段に腰を降ろして息を整えている。

「そうなるな、ステマ。桐山も悪かったな。こんなことにつき合わせて」

「いえ……科学的にお役に立てなくって、残念です……」

 花梨は自分の足で立てないようだ。階段の柵にアゴを引っ掛けるようにして全身をだらんとそこに預けていた。

「まだあきらめることはないよ、花梨ちゃん。まだ、鬼ばばあとか残ってるよ」

「ひいいいぃぃぃっ! 言わないで、ステマちゃん! ホントに出てきそうだから!」

 魅甘が両頬に手をついておののき震え上がる。

「大丈夫だよ、魅甘ちゃん! 鬼ばばあの一人や二人! 私が倒してあげるよ!」

「その自信は何処から出てくるんだ、ステマ?」

「むっ? テキトーに! 私、基本打たれ強いから!」

「まあ、何があっても、昔からケロリとしてるが……」

 細い上腕部に形だけ力こぶを作るステマに廣告があきれた視線を寄越す。

「ふふん……札束で頬を叩かれ以外に、私を倒せると思って!」

「本当にそれで倒せそうだな、お前」

「ういっす! できればハードカレンシーでお願いします!」

 ステマが軽く敬礼をしながら応えた。凛々しい振りでもしているつもりがその口先をわざとらしくも三角に尖らせる。

「何だよ、ハードなんとかって?」

「円とかドルとか、ユーロとか! 国際決済に使われる通貨よ! 何と言っても国際的な信用が違うからね! 頬を叩かれた時の恍惚感が違うわ!」

「叩かれとけ、いいから」

 廣告が呆れたように鼻から息を抜くと、

「なら、さっきの売り上げで私が――ふん!」

 魅甘がおでこと眼鏡を光らせて札束でステマの頬をはたいた。

「ああ! 何て幸せ!」

 ステマが打たれた頬を緩めながら倒れていく。

「香川! てめえ! 何の躊躇もなく!」

「お金は人を変えるわ……悲しいけれど、それが世の中よ……」

 魅甘がふっと遠い目で天井を見上げる。

「お金で人を買えると言わんばかりに叩きおって……何を人の哀しみにふけってるんだお前は? ん? どうした、桐山?」

 人の哀しみに遠くを――それでも上を向かんと天井の何処か辺りを見つめる魅甘の向こうで、

「……」

 いつの間にか柵から離れていた花梨が背中を皆に見せて固まっていた。

「どうしたの、魅甘ちゃん?」

 ステマがその横に並び花梨の見つめる先に目を凝らす。

「でででででで……」

「何だよ? 何おかしなビート奏でんだよ、桐山」

 廣告がステマとは反対側の花梨の横に並ぶ。

「でででででででででででででででで……」

 『で』と発する度に小刻みに震えながら花梨がゆっくりと右手を挙げていく。その右手は指差すように人差し指が伸ばされており、その爪の先まで細かく震えていた。

 指に遅れて花梨が廣告に顔を向ける。その顔面は完全に血の気が抜けて蒼白になっていた。

 花梨が指差すその先に一際闇の濃い一角があった。

 そこは蛍光灯が照らすはずの廊下の一角。何処か人の心がわだかまったような闇に覆われている。

「おい……あそこ……蛍光灯が切れている訳でもないのに……何か真っ暗だぞ……」

「ひ、廣告! 何それ? ホント怖いよ!」

「ひいいいぃぃぃっ! 吾斗! 怖いこと言わないで!」

「でででででででででででででででででででででででででででででで……」

 四人は四様に恐怖に顔がこわばり、全身が金縛りにあったように動けない。

「……」

 心霊現象的なまでに暗いその闇の中に少女のシルエットをした人影がぼうっと立っていた。

 少女は何処か遠くを見ているようだ。いや遠くを見ているようで何処も見ていない。その目から人の生気のようなものが失われていた。

 少女は何処を見る訳でもなくうつろに虚空を見つめていた。

 まるで己の意思をなくしたかのように――

「あれ誰、廣告? ウチの制服着てるよね? 居残ってる生徒?」

「いや、よく見ろ、ステマ……あの生気のない目……ホントに生きてる生徒かよ……」

「いや! 廣告! 怖いこと言わないで!」

「……」

 最後のステマの声にその少女はこちらに気がついたようだ。不意にスイッチが入った電球のように目に生気が戻った。

 光が戻ったとたんに少女はその目をステマ達に向ける。

「あなた達……」

 今度こそ本当に恨めしい声を響かせながら、

「何を神聖な校舎で騒いでいるんですか……」

 不思議な暗い闇の向こうからゆらりと真っ直ぐな髪をした少女が現れ出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ