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ステマ 14

「皆、落ち着け! あれはペトペトさんはペトペトさんでも! あれは今を生きるペトペトさんこと――」

 廣告は向こうの世界に行きそうになっている二人をがくがくと震える足で見下ろした。そして廣告がこちらもぶるぶるに震えている手で何とか前を指差す。

「古文の子安こやす先生だ!」

「子安先生? ホントだわ! 露骨にイヤらしい目で女子生徒を舐め回すように見る子安先生ね! ムレムレの脂肪の隙間から、ねっとりと湿った目で女子を盗み見するリアルペトペトさん――子安先生だわ! 溜めに溜めまくった皮下脂肪のせいで、いつも汗だくの子安先生ね! しかも割とちっちゃな女子のみひいきするのが丸わかりの『誰が高校の教師にしたんだよ』って言われちゃう子安先生だわ! 『でもむしろ高校の先生でよかった! 小学校の先生だったら、確実にアウトだよね!』とか陰で言われちゃう子安先生じゃない!」

 正体が分かってもなお近づきたくないのか魅甘が後ろに一歩二歩と後ずさりしながらまくしたてる。

「あのな……お前ら……」

 子安が脂肪のたるんだ頬をぴくりと痙攣させた。

「先生! ほにょぽろーん!」

 ステマが子安に手を振りながらいつもの挨拶をする。

「ぽっ……ぽにょぽろーん……」

「ああ! リアル女子にどう接していいか分からずに、先生が気持ち悪い笑みを浮かべてるわ! しかも勝手に挨拶の言葉を気持ち悪く変えちゃって!」

 魅甘が子安の様子に更に一歩じりっと下がる。

「いや、その……僕は……」

「そうなんですか、先生? 普通に挨拶ですよ。緊張することないですよ。ほにょぽろーん!」

「あああ、その……僕……あの、ほにょほにょ……」

 子安はおどおどと視線を泳がせながらステマに応える。そしてその右手は中途半端に挙げられ、弱々しく開いた手の平で振り返される。その脂肪でまるまるとした指と手の平には汗がどっと吹き出ていた。

「ほっといてやれよ、ステマ。先生が挙動不審の見本になってるぞ。お前のファンの成れの果てみたいなもんだぞ、この先生は。どうせリアルな女子に接する機会なんて、授業しかないんだ。放課後に女子生徒と話すなんて、先生の神経が保つ訳ないだろ? このまま帰らせて見ろ、職務質問間違いなしだ。安心安全情報メールが山ほど届くぞ」

「あ、あのな……吾斗……」

「それもそうね! 花梨さん! あなたは話しかけちゃダメよ! この中で一番、先生のストライクゾーンど真ん中なんだから!」

「か、香川……」

「は、はい……非科学なペトペトさんより……科学的な子安先生の方が、何だか怖いです……」

 花梨がその小さな体をわなわなと震わせながら、廣告の背中に隠れて顔だけのぞかせた。

「き、桐山……お前まで……」

「ああ、先生が一際残念そう! やっぱり花梨ちゃんが、どストライクなんですね!」

「桜、お前な……」

「先生! 先生のストライクゾーンのど真ん中が何処かなんて干渉しませんけど! スクールゾーンのど真ん中に飛び込むのは勘弁してくださいね!」

「ああああ、あのな、吾斗……」

「せせせ、先生……本当に身の危険を感じます……」

 花梨が更にぶるぶると震えながら、廣告の背中の奥へと消えていく。

「ま、待ってくれ……桐山……先生は決して年齢で、女の子を変な目で見たりしないぞ……」

 そんな花梨に向かって、子安が脂が中に詰まり皮膚に染み出たようなまるっこい汗だらけの指を伸ばした。

「ええ! 合法派だったとは! 年齢は合法でも、精神と見た目がアレなら――っていうそっちの方なのね!」

 魅甘が両手を頬に当てて如何にもおぞましいと身震いした。

「合法だと! いや、教師が生徒に手を出すんだ! そりゃ脱法と呼ぶべきだろ!」

 廣告が背後の魅甘を後ろ手にかばいながらじりっと一歩後ろに下がった。

「何を根拠に言ってる、吾斗……」

「その手が証拠です、先生! 正に今、手を出そうとしてる!」

「あ、いや……これは誤解を解こうと……」

 自らの行為の正当性を示さんとしてか、子安が更に右手を前に伸ばしてきた。

「ひぃ……先生……」

 その様子に花梨が小さな引きつった悲鳴を上げる。

「いや、誤解だ……桐山……」

「ひい! 私は先生の好みの年齢体躯なんじゃありません! 私は単に――」

 己の主張をもって相手を退けようとしか、花梨が廣告の背中から半身だけ外に出た。そしてまだしっかりと廣告の背中を両手で掴んだまま、花梨が勇気を奮い起こさんと廊下に力強く足の裏を着いた。

「〝ネオテニー〟なだけです!」

 花梨は震えながらもバンと着いた足の勢いのままにそう断言する。

「何言ってんだ、桐山? ネオ何だって?」

 廣告の後ろで震えて固く背中を掴んみながらも相手に身を曝す花梨。その吊り目の涙目が語った耳慣れない単語に廣告達の視線が集まる。

「ネオテニーです。動物の成熟した個体でありながら、幼生の性質が残っている現象のことです。俗にいうウーパールーパー――メキシコサラマンダーなどが有名です。ネオテニーは発育が遅れる代償に、その分環境に適応する能力を得やすいとも言われています。幼く完成していない方が、柔軟なんに対応できますから。つまり幼いということは、進化に有益だということです。ヒトも猿のネオテニーだと考える人だっています。私は科学的に考えて幼いのではなく、ネオテニーなだけなのです」

「いや、それホントに科学的な結論か?」

 急に冷静になって説明を始めた花梨に、こちらも冷静に廣告が突っ込んだ。

 冷静に戻った二人が口を紡ぐと薄暗い校舎が沈黙に支配された。

「つまり……合法的な年齢で……中身はアレな……」

 その沈黙をごくりと息を呑む大きな音が不意に破る。

「あっ……」

 思わずにか自身が漏らした言葉とノドの音に子安がしまったとばかりに両手で口元を押さえた。

「ぎゃっー! 本音ポロリ、来た!」

「花梨ちゃん、逃げて!」

 固まっていた魅甘とステマが同時に動き出す。二人して花梨の上にかぶさり子安から守ろうとする。

「おおお、お前ら……だから誤解だと……」

 子安が慌てたようにもう一度手を伸ばしてきた。

「おのれ! 本性を現しましたね、子安先生! そんなことだから、人として勘弁なあだ名で、生徒に陰で呼ばれてるんですよ!」

 廣告が両手を広げてこちらも花梨を守ろうとした。

「何だ? 『人として勘弁なあだ名』? 何だ、吾斗?」

「聞きたいですか?」

「あ、ああ……」

「非人道的なあだ名ですよ?」

「お、おう……」

 声を詰まらせ目を怯えに震わせながら答える子安に、

「〝ペドペド〟さんです」

 廣告が真っ直ぐその目を見据えたまま断言する。

「『ペドペドさん』……」

 その呼び名に子安がきょとんと突っ立った。

「ええ、ペドペドさんです」

「ペドペドさん……」

 子安がその言葉の意味を呑む為にかうつむき床を見た。

「いや、もうホント……〝ペドペド〟さんだけは――呼ばせないで下さい……」

 廣告が最後にそう子安に告げると、

「――ッ! ぶうおおおぉぉぉっ! 誰がペドペドさんだ! 僕をバカにするな!」

 子安が額からだらだらと汗を流しながら突然叫び出した。

「うわあああぁぁっ! 子安先生が突然キレた!」

「ぶびいいぃぃぃっ!」

 奇声を発し全身から汗を飛び散らせる子安。ペトペトさんもかくやとねちっこい水分を飛ばして廣告達に襲いかかる。

 現代的なペトペトさんにべちゃべちゃと足音を響かせて追いかけられ、

「うぎゃあっ! ペドペドさんに奇声と変な汗を発して追いかけ回される事案発生!」

 廣告達は我先にと夜の廊下を逃げ出した。

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