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ステマ 13

「ぜえはあ……ぜえぜぇ……」

 息も絶え絶えの呼吸を何とか整えながら、廣告は三階へと上がる階段で壁に手をついた。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花――ってヤツね……」

 階段を昇りきったところで力つきたらしい魅甘が、三階の廊下で仰向けに天井を見上げながら大の字に転がっていた。

「枯れ尾花なら、もっと余裕を持とうぜ俺ら……」

「枯れ尾花なんて聞かれたら、今度こそ呪い殺されるけどね……」

「今ので幽霊騒ぎ終わり、魅甘ちゃん?」

 昇りきった三階の廊下でヒザを折りステマが息を整えながら訊く。

「何を言ってるの、ステマちゃん? まだ本物の幽霊には遭ってないわよ」

「本物の幽霊なんて、非科学です……」

 こちらは階段の途中で力つきたらしい花梨が、階段にうつ伏せに倒れながら顔を上げることもできずに呟く。分厚い科学書を投げ出すように右手に持って倒れていた。

「まだやるのかよ? そんなに本物の幽霊に会いたいなら、一人で行けよ」

「何言ってくれちゃってんのよ、吾斗。『人』という字は、人間が支え合ってできているのよ。あんた人としてそれどうなのよ?」

「呪い殺されて、幽霊の支え合いにならなきゃいいけどな」

「怖いこと言うな!」

 廣告と魅甘が言い争っていたその時――

「なななな、何? また何か聞こえた……」

 ステマがぞっと血の気を失いながら顔を上げた。

「ぎゃっ! ステマちゃん! 驚かさないで!」

 魅甘ががばっと跳ね起き花梨を息も止まらんばかりに抱きしめる。

「科学的に……科学的に考えるんです、私……」

 こちらも涙目で起き上がり魅甘に抱き寄せられるがままになりながら花梨が呟く。

「ああ、確かに……何か水滴が落ちるような――ぴちょん……ぴちょん……て、音が……」

 無意識にかステマの前に出た廣告が遠くに目を凝らし耳を澄ませた。

 廣告とステマの視線の先――そこだけ蛍光灯が切れているらしく、闇が落ち固まったような場所があった。

「ひひひ、廣告……あそこから……」

「ああ、あの暗いところから、聞こえてくるな……」

「蛇口の閉め忘れ?」

「そんな感じの音だけどな、ステマ……なんだか……」

「何よ! ななな、何が、いいい、言いたいのよ、あああ、吾斗!」

 お互いの接合面が平面になりかけるまで花梨を強烈に抱きしめながら魅甘が震え声でわめく。

「なんだか……どんどん近づいてくる……人の歩くくらいの速さで……」

「ひぃいいいいいぃぃぃぃいいいいっ!」

 魅甘がもう一度両手を頬にやって真っ青になって悲鳴を上げれば、

「ぴちょんと響く高音は、液体が個体に重力に引かれて落ちているだけ……その衝突音が空気を震わせ音波となって耳に届いているだけなのです……それが次第に近づいてくるということは――ふぅ……」

 科学的に考えていた花梨が血の気を失ってその魅甘の中で青ざめ後ろにのけぞる。

 何かが近づいてきた――

「何あれ、廣告?」

「さあ……何か、汗だくで人を付け回しているような足音だが……」

「ひぃそれって、あれじゃない? 暗い夜道で遭うっていう……」

 近づいてくるものはやはり何かを身から滴り落としている。闇の一番濃い部分にまだ上半身を残したままのそれは、無惨にふくれあがったような人間の足をまずは灯りに曝した。

 そしてその足のふくれた腹部から廊下に滴り落ちる液体。まるで立った今水辺から這い上がってきたかのようだ。そのふくれあがった人間は廊下に己が滴り落とした液体の筋を引きながらゆっくりと四人に近づいてくる。

「今度こそ出たああああぁぁぁぁぁっ!」

「ペトペトさんよ!」

 廣告が一歩後ずさり、その背中にステマがしがみついた。

「べべべべべべ、ペトペトさん! 妖怪界の元祖ストーカー! 夜道を歩く人をつけてくる変質者妖怪! 来たーっ!」

 魅甘が泡を吹いて天井を見上げる。そしてそのまま気を失い抱きついていた花梨の胸に倒れていった。

「ふぅ……」

 だが花梨が先に気絶していたようだ。花梨は魅甘の胸に先に倒れ込んでいた。

 魅甘と花梨が互いに気を失い人の字を描いてお互いを支え合う。

「魅甘ちゃん! 花梨ちゃん! しっかり!」

 ステマが人の字を揺さぶり二人を正気づかせようとするが、

「あれ? お花畑は? 金のなる木が鬱蒼と茂る金満ジャングルは? 向こうから誰か手を振っていたのに! 有名な投資家に違いないわ! ああ、あなたの投資セミナーに私を呼んで――」

「川が見えました……酸と酢でできた川が……誰かおばあちゃんが向こう岸で手を振ってます……あれはマリー・キュリー? それともリーゼ・マイトナー? ぜひ一緒にこの酸と酢の川の科学的成分の解析を――」

 二人から帰ったきたのは何やら怪しげな臨死体験のうわごとだけだった。

「お金のお花畑……」

「酸と酢の川……」

 尚も何事かうわごとを呟く二人の頭をブンブンと上下に振り、

「二人ともしっかり! それ二つとも、そっち行っちゃダメなヤツだから!」

 ステマが涙目になりがなら二人を現世に呼び戻そうとした。

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