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ステマ 1

ステマからのお願い!


ライトノベルを読むときは気分を明るくして、ちょっと距離をとって読んでね!



「ほにょぽろーん!」


 私立屋良堰田やらせだ高等学校一年――吾斗廣告あどひろつぐの朝はいつも拡声器の喧騒をもって破られる。

 それは奇妙な挨拶から始まる廣告にとってはいつもの光景だった。

「皆様! お元気ですか? ほにょぽろーん!」

 音割れを起こしている耳障りな拡声器越しの声。その音割れに続いて襲ってくる不快なハウリング。何よりも早朝の住宅街に全くもって遠慮をしないその声量――

「はーい! ご近所の皆様! おはようございます! 今日も、この私――そう! 皆様のアイドル! この私めが! 本日の屋良堰田高校情報をリポートに参りました!」

 廣告の朝はいつもこうだ。

 何処にでもある一軒家が並ぶ住宅街。そのやはり何処にでもありそうな二階建ての家の平凡な一室で、廣告は昇ったばかりの陽光がカーテンの隙間から差し込む光に目を細めた。

 いや、目を細めたのたは陽光のせいばかりではないようだ。廣告の細められた目の端が苛立たしげにぴくぴくと痙攣した

「このご近所の皆様のご子息も多くが通われる私立屋良堰田高校! その気になる最新情報を――誰よりもいち早くお届けする朝の大人気町内放送番組『おはよう! お財布!』の時間です! 今日は購買部で話題のスィーツ! 焼きそばパンをご紹介します!」

 廣告は寝起き故か、それとも湧き上がる感情にか。ぐぐぐと両手に力を入れてうつ伏せに寝ていた己のベッドから起き上がった。

「味は濃厚にして、口当たりは軽量。パンのふわふわ感と、焼きそばのしっとり感が一噛みすれば連打でやってくるこの幸せ! そして一度お口の中で混じり合うや、実に絶妙に渾然一体となってソースと小麦粉が味蕾を襲うこの一品。赤い紅ショウガが視覚と味覚に適度な緊張感を与える憎い演出がまたたまらない。安価でありながらボリュームたっぷりなこのお総菜パンは、成長期のお子様のお腹に食道から一直線すること間違いなし!」

 廣告はベッド脇の目覚まし時計をむんずとつかんだ。その目覚まし時計の針は、セットされた起床時間の遥か前を差している。

「皆様、朝はお忙しいですよね? お弁当も毎日じゃ疲れちゃいますよね! そんな時はほら! 購買部を利用すると何かと便利! 親御さんはお弁当の手間を省け、お子様は満腹感に包まれます!」

 廣告は陽光差し込むカーテンを乱暴に引い開けると、がらっと勢いよく窓を開いた。

「しかもここで、ワンポイントお得情報! 何と今日はこの焼きそばパンが三割引き――何と、三割引らしいですよ! これは利用しないと損ですよね!」

 窓の向こうの朝日輝く爽やかな路地に少女が居た。

 拡声器をベルトで肩から脇に吊り下げたすらっと手足の長い美少女。

 そう。それこそ朝の広告枠で採用されそうな美少女だった――

 窓が開いたことに気がついたのか、少女は廣告を見上げてくる。

 少女は廣告が開けた窓の向かいの家の前で、この朝の太陽の光に負けない笑みを輝かせていた。

 実際四角く区切られた窓枠が、まるで企業イメージか何かの広告枠のようにすら見える。広告主の誠実さや透明さ。それを伝えるイメージにぴったりの美少女だ。今まさに広告から抜け出してきたかのような満面の笑みを浮かべている。

 美少女は拡声器のマイクを握っていた右手は手放さずに、空いていた左手で廣告に手を振ってきた。

 無邪気なまでの朗らかさだった。

 そして短いスカートからのぞくこちらも朝日に光る太ももに、何故か『広告募集中』と書かれたシールを貼っていた。

「何という大出血サービス! 今日のお昼はまるで青のりとソースのお祭りですね! では、ほにょぽろーん! このリポートをお送りしたのは、私――購買部のアイドルことさくらス――」

 笑顔で愛想良く己に手を振ってくるこの美少女。

 この美少女に廣告は応えるように手を挙げると、

「うるせぇぞ! 桜ステマ! ステマなら、他所でやれ!」

 手に持っていた目覚まし時計を少女の顔面に向けて投げつけた。

 目覚まし時計はものの見事に少女の鼻頭に激突し、


「ぶはっ!」


 その美少女は己の言葉通り鼻血を大出血しながら後ろにのけぞった。

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