戦闘終了。
微シリアス入ります?
彼女が、血にまみれて倒れた。彼女が血を流しながら倒れた。彼女が血を滴ながら倒れた。彼女が出血死しそうだ。彼女が出血しながら倒れていった。
ーーー彼女が。死にそうだ。
昔のように、かつてのように、あのときのように、去年のように。俺が僕になったときのように、彼女が。
ーーー死にそうだ。
「よ、よし成功だ。これで、お前が敗けをみt」
「舞に、舞になにをしたぁぁぁ!!」
俺は全力で右足で地面を蹴り、彼女を傷つけた張本人に左足で跳び膝げりを顔面に食らわせる。彼女を傷つけるやつは許さない。たとえ、俺が罪人になろうと、殺人鬼になろうと構わない。あのとき、俺のせいで彼女は大きな傷を負った。死の淵をさ迷う大怪我を。そして、彼女が大怪我を負ったのは俺を庇ったから。俺のせいで彼女は、彼女は。一度死にかけた。だから、俺は彼女を二度と傷つけないと誓ったのに。
「お前の、お前のせいでっ!!」
俺の跳び膝げりを食らった加害者は、後ろに鼻血を出しながら、綺麗に後ろに吹っ飛ぶ。俺は、吹っ飛んだ奴の上に馬乗りになり、ただひたすらに拳を振るう。怒りに身を任せ、感情を爆発させ、情緒を暴走させ。ただひたすらに、拳を振るう。
「やめ、やめてくれぇぇ。」
彼女に被害を与えた時とうってかわって、態度を一変させ俺に許しを請う青年。その瞳には、俺への恐怖の感情が渦巻いて見える。彼女を傷付けたんだから、俺の怒りを受け止めてくれるんだろう?なんで、そんな目で俺を見る?どうして、そんな顔をする?俺は悪くないじゃないか。お前が彼女に怪我をさせるから。お前が、彼女に被害を与えたから、俺はこうして彼女の変わりにお前を殴っているんだろう?お前が、彼女をコロソウとしたから、俺はお前を殴って、殴って痛め付けてるんだろう?どこも破綻していない、完璧な理論じゃないか。
「ゆる、許し………。」
「なに勝手に気絶してんだよ。」
俺は気絶した雑魚を殴り続けることで目を醒まさせる。やっと、一回。これだけじゃ足りない。これをあと、九十九回やれば、彼女を傷付けた罪は消えるだろうか。彼女も彼のことを許してやれるだろうか。あと、九十九回。まだ足りない。全然足りない。もっと、傷が傷つかなきゃ、彼女の怪我には届かない。
「クッソ、さっさと気絶しろ。」
ただ、ひたすらに拳を振るい続ける。右手と左手には血がこびりつき、殴った時の手の感覚が次第になくなる。あと、九十八回。まだまだ。全然。ちっとも。まったく。足りない、届かない。コイツが死にそうになっても構わない。むしろいっそ、死んでくれて構わない。ここでなら、誰も俺をさばけない。俺はこの世界の人間ではない。俺に先に殺気をぶつけてきたのはやつらだ。先にしかけてきたのはこいつらだ。だから、俺は悪くない。
ーーー俺は悪くない。だから、俺は悪くない。
ーーー俺は悪くない。ゆえに、俺は悪くない。
―――――
「もう、やめろ!二心。」
あと、五十回というとき、一身は俺の行動を止める。どうして、俺がやめなければいけないの?彼女を殺そうと、殺めようとしたのはこいつなのに。まだ、全然足りないのに。
「もういい。彼女は助かった。助かったから…。」
彼女は一命を取り止めたようだ。良かった。
「俺も、あと、五十回終わったら行くね。」
にこりと。
唇の端がつり上がるのが良くわかる。彼女が死んでいないと分かって俺も、一安心。良かった、良かった。本当に良かった。あとは、こいつを、コイツをコロして一軒ラクチャク。
「彼女の所に行きたいから、早くくたばれよ。」
笑う。
目の前でなすすべもなく散らせる予定の命に対して、嘲笑う。
そして、殴り続けてあと二十三回のとき、俺は首の衝撃と共に、唐突に意識を失った。俺は、倒れるときまで、殺すことを考えていた。
―――――
「それが、お前の行動の全てだ。」
僕は、保健室で僕の行った行動の全てを一身に聞かされた。そうか、僕のせいで彼女が………。
また、守れなかった。また、傷つけてしまった。僕のせいで、僕のせいで、僕のせいで!それなのに、彼女は僕にあんな笑顔を向けてくれたというのか?どうして僕のせいで傷ついたのに、僕を恨まない?僕のせいで傷ついたのに。約束を破ってしまったのに。約束に日から一年もたっていないのに。彼女は僕のせいで大怪我をしたのに。
「治療は俺がしたんだけど、彼女は二心のこと心配してたよ。」
「僕のことを……?」
自分を傷付けた、僕のことを心配して……?どうして?わからない。なにもわからない。彼女が僕のことをどう思っているのか、どう考えているのか。
「また、あのときみたいに、なるんじゃないかって。」
「………っ。」
情けなかった。彼の話を聞く限り、僕はまたあのときに戻っていたようだ。きっと、彼女が傷つけられたからだろう。俺が僕になったあのときに。彼女の不安通りになってしまった自分が情けなかった。
「僕は、どうすればいい……?」
「それは、俺に聞くんじゃなくて、自分で考えろ。俺はお前とは違うんだから。」
一見冷たいような言葉だけれど、生まれたときからの付き合いの僕には良くわかる。あぁ、僕を心配してくれているんだなと。彼が立ち去るのを見て、その背中が、扉の奥に消え行くのを確認して、僕は横で幸せそうに眠っている彼女のおでこにキスを落とす。うわー、自分でもこの行動はないわー。とか自分の行動に呆れを感じたけど。
でも、それでも、たとえ、気持ち悪いと言われても。それでも。これは、誓いのための。僕の誓いのためだから。
僕は弱いけど、僕が君を守るから。
「あっ、そういえばお前のお陰で、結婚なくなったんだわ。ありがとう。」
跳びげりを腹に入れておいた。
読んでくださってありがとうございます!!
少しシリアスぽかったですかね?我慢できずに最後に笑えないギャグを入れたのはご愛敬ということで、よろしくお願いします。次回、新章か!?それとも、続くのか!?何て、どちらでもいいですよね。ではでは、次回もよろしくお願いします。