告白
今日の日の為だけに組み上げられたステージ。その看板には、今は只のステージ発表とだけ書かれている。三年生たちの劇が行われているのだ。普通、そう言うのは体育館とかでやればいいと思うのだが、数年前からここでやられており、今さら変えることも出来ないだろう。そして、今でこそ、ステージ発表と書かれている看板だが、あれは、今日の夜、後夜祭の時には、その看板の内容を大きく変える。
――好きな人へと思いを届けろ。
そう言った内容に変化する。しかしながらこれは、例年通りではなく、生徒会長が無理矢理捩じ込んだものだった。そもそも捩じ込むも何も、最初から後夜祭の時は、あのステージを使うことはまずないのだが。
僕は前に、夏休みまでと制限を設けた。それは、自分の気持ちに整理をつけるためだったりと、いろいろな理由は存在するのだけれど、幾ら理由があったとしても、あの日、遊園地の観覧車でその思いに答えられなかった僕は、ちっとも男らしくない。別に、男らしくありたいわけではないが、あれは情けなさすぎる。多分、生徒会長は、僕の反応を楽しむためにこのイベントを無理して空白のスケジュールに捩じ込んだんだろう。
チャンスは今日しかないと、本能的な何かが僕に語りかける。今日を逃せば、彼女と真正面から向き合い、思いをぶつける機会がなくなると。他の日では、その言葉が軽くなると。大勢の前で、大見得切って、それで告白して。それで初めて期限を設けた意味が生まれる。大勢の前で告白すれば、後には引けなくなる。だからこそ、意味がある。ゆえに他の日では、意味がない。僕の思いの丈を伝えるのならば今日しかない。
僕は、横でたこ焼きを頬張っている舞さんを眺めそう思う。このイベントのことを知ったのは今日で、他の生徒には知られておらず、このイベントがあることを知っているのは、生徒会の人間だけである。大体こういうのは大勢参加型である場合が多いのだが、しかしこのイベントは、生徒会役員以外には知らされていないその性質ゆえか、冗談で参加する生徒を許さない。そのステージの看板が吊し上げられるのは、キャンプファイア直前で、その時に吊し上げられるた時にだけ動ける人間だけが、その場で叫ぶことが許される。だからこそ、冗談半分以上でないと参加することが躊躇われる。僕の兄はそんな風に設計した。
全く持って、僕の兄と言うのはいい性格してらっしゃる。僕が動かざるおえない状況を作り出したんだから。弟が兄を越えることはないって言うけど、どうやらあれは本当のようだ。これで、フラれたら笑い話にもならない。けれど、そんなイベントだからこそ、僕の決意が試される訳であり、それを証明する場でもある。ここで、男を見せないで、いつ見せるのだろう。
きっと、僕以外の人間も何人かは参加する。カップルが愛を確かめ会うために、好きな人に告白するために、両思いになるために、ラブレターの返事をするために。突拍子もないイベントであるからこそ、本気度が確かめられる。だから、僕はそこで叫ばなくてはならない。彼女への、舞さんへの、刃羽舞へと、自分の言葉を伝えるために。
今、ステージの上は、二年生による漫才で盛り上がっている。日は落ち、辺りが暗くなってきた頃、それは開始される。吊るされていた、ステージ発表と書かれている看板は下ろされ、生徒会によって変わりの看板が吊るされる。ピンク色の文字で書かれたそれは、ふざけているようには見えず、その文字ですら真面目な参加者以外の参加が憚れるほどだ。僕は、それを確認し、受付へと向かう。飛び入り参加は可能だが、この空気のなかそれをできる馬鹿はいない。
受付には一身がいた。僕の愛すべき兄であり、僕を道化にするために焚き付けた、この学校の生徒会長。一身は僕が一番に来たのを見て驚いていたが、その高性能を生かし、にやにやとした表情にしたまま、僕の受付を済ませる。何となく、この流れの全てが彼の掌の上の気がしてしまうが、あとで火凛さんに協力してもらって、貶めるから構わない。それよりも、僕は舞へ送る言葉を考えていた。
次々と、告白を終えて人々が壇上へと昇っては降りていく。告白に成功したもの、失敗したもの、想いをぶつけたもの、愛を確かめあったもの、返事を返したもの。様々な人々が様々な様子で移動する。清々しい表情をしたもの、泣いているもの、叫んでいるもの。多くの人間の想いを聞いても、僕の決意はちっとも揺るがない。
――次は、僕の番だ。
渡されたマイクを何度か手で握り直す。副会長という役職がら、握りなれているはずのマイクの握りかたも、大衆の意識の仕方もすっかり脳から抜け落ちるほどに、緊張している。これで、断られたら黒歴史じゃすまないな。そんなことを思いながら、僕は壇上へと上がる。いつもとは違う目線。けれど、僕のやることはたったひとつだ。
「刃羽 舞さん!!」
俺は大きく息を吸い込み、叫ぶ。伝えることは一つだから。俺が昔から言いたかったことだから、仮面を外して、叫ぼう。
「僕と付き合うのを前提に結婚してくれ!!!!」
読んでくださり有り難うございます。
ついにここまで来ました。
恐らくあと少しで終わるので、もう少しお付き合いください。
まだ、六月ですけどね、この物語……。




