感情
「……。」
「……どうしたの?」
俺がイライラしていると、志乃が俺に聞いてきたっす。手を繋いだまま移動してるっすけど、そんなことは関係ないっす。頭の中では、さっきの保健委員長の鵜絡先輩と志乃の光景を目に焼き付けてしまっただけに、胸の奥で沸々と黒いかんじょうが沸き上がってくる、っす。別に、志乃とは小学までが同じだった幼馴染みってだけで、俺にとっては、それ以上でも、それ以下でもないはずっす。偶々、近くで育っただけの、俺の幼馴染みと言う肩書きを持つ少女、それが積本 志乃というだけのはずっす。だから、この何か訳の分からない胸の奥で燻っている感情は嫉妬などと言う、誰かを羨む気持ちではないはずっす。
「……どうしたの?」
「なんでもないっす。」
首を傾げて、俺に聞いてくる少女に、苛立ちが募る…っす。どうして俺の感情を分かってくれないのかという身勝手なものから、異性と手を繋いだまま歩き続けるという行動に、何の恥じらいも持ち得ていなさそうな彼女に、イラつくっす。普段は、こんなに感情が高ぶるほど、思うことは何もないの、なんで今日に限ってこんなに……!
きっと、文化祭だから、感情が高まりやすいんすかね。感情の高まりは何もプラスにだけ働く訳ではないっすから。当然のことっすけど、マイナスの感情が高ぶれば、事件や事故が起きるっす。もっとも、自制の効く人間はそんな失態を起こさないでしょうっすけど。少なくとも、今の俺は、こうやって様々な事を考え抜く反面、動いていなければ感情が暴走しそうという、不安があり、その感情の暴走によって事件を引き起こし、生徒会に迷惑をかけるわけにもいかないっすから、志乃の手を引きながらいくあてもなく、様々な出し物があるなかを通っていくっす。
「……商村くん。あれ。」
「…ん?って事件っすか?……しょうがないからいくっす。あ、ふくかいちょーに連絡よろしくっす。」
「……分かった」
俺は志乃と繋いでいた手を放し、人が集まっている所へと行くっす。どうやら、喧嘩が起きていたそうっす。片方は……俺の同級生で二心先輩を慕っている風紀委員の一年生っす。先輩は犬未体験と評していた見たいっすけど、ああやって威嚇する姿は、どちらかと言えば猫みたいっす。そして、それに相対するように立つのは、元風紀委員副風紀委員長、翼街悠八先輩っすね。副会長がボッコボコにした、つまり負け犬っす!猫対犬の対決っす。ただ、流石に喧嘩になりそうな雰囲気は止めないといけないんで、間に入るっす。
「あー。喧嘩はやめるっすーー。」
気の抜けた口調で仲裁には入る。けれど、一触即発だった雰囲気は和らがず、負け犬先輩は俺の腕に巻いてある腕章を見て激昂するっす。
「貴様は、生徒会……!!貴様のところの和宮二心のせいで俺は……っ!俺は……っ!」
何かに耐えるかのように、拳を震わせる負け犬先輩。内に秘めた感情とでも戦ってるとでも言うんすかね。
――この人を見てると、さっきまでの自分に嫌気が差すっす。
この先輩は、刃羽先輩が好きだった。けれど、刃羽先輩の心は既に二心先輩奪われているっす。だけど、諦めきれない。そこまでは理解できるっす。けれど、そのあとの行動はダメダメっす。零点っす。あろうことか、本人の休んだタイミングで、しかも刃羽先輩の預かり知らぬところで、彼女をかけた勝負をしたんすから。
ドロドロとした感情は分かるっす。好きな人が、奪われそうになって焦る気持ちも。
だとしたら、さっきの俺の行動は、負け犬と同義ではないか。保健委員長、鵜絡先輩はただ志乃をお茶に誘っただけなのに、その誘いの返事を拒絶させ、挙げ句の果てに敵を見るような目で、睨みつけたんすから。これじゃ、俺も人にダメって言う資格はないっすね……。俺が自己嫌悪に陥っていると、とうとう感情の抑えが効かなくなったのか、負け犬先輩は俺に殴りかかってくる(実際はそんなに隙がある動きではない)っす。このところままじゃあたるっす……!!俺は、くる衝撃に耐えるために目をつぶるっす。
「ふぅ、翼街。お前が風紀委員をやめることになったのは、自業自得だと……私は思うぞ?」
聞こえてきた声に反応し、目を達成したのである開けたらすぐそばに居たのは、佇んでいたのは、前年度の副風紀委員長にして、今年度風紀委員長、刃羽舞先輩だったっす。
「……舞!!なんで、なんでお前は!!」
刃羽先輩の登場によって、感情の暴走に拍車がかかったのか、刃羽先輩に怒濤の攻撃を始める負け犬先輩。けれど、刃羽先輩はその攻撃を全て軽く受け流す。剣道部なのに竹刀を使わずに戦ってるっす!
「あれじゃ、男子視線を惹いちゃうよ……。またファンクラブ増えるって……。」
「あれ?ふくかいちょー居たんすか?」
何時の間にか横に立っていた二心先輩が悲観していた。俺の問いかけには答えないっす。まぁ、刃羽先輩がいる=二心先輩がいるっすから、別に違和感はないんすけど。
「……良かった…!無事だった……。」
声がした方を振り向くと、そこには志乃がこちらに向かって走って来ているところだった。
「……ふくかいちょー。そのにやけ面やめてくれないっすか?」
俺の抗議は聞き入れられず、二心先輩は刃羽先輩に見惚れていた。……、あとで、絶対、戦っている見惚れていたって刃羽先輩に報告するっす!!
読んでくださり有り難うございます。
記念すべき60話です、イエーイ。
視点は、庶務のあの子です。
最近にして私は思うのですが…、サブタイトルに一貫性が無いと。
元々、見きり発車で始めているので何となく仕方がないと言えばないのですが……。
そんな状態なので、前の話のサブタイトルを変更するかもしれません。まぁ、めんどくさいのでしないとは思いますが。というわけでもし変わっていてもご了承下さい。
次回、そろそろ戻ってほしい、視点。流石に五日連続投稿はキツイ……っ!




