文化祭の彼
舞さん視点です。
「じゃあ、行こうか。」
二心は、そう言って、私の手を軽く握る。幾ばくか緊張しているのか、その手は若干汗ばんでおり、それは私を一人の女子として見てくれていることに他ならず、その事実が私の頬を朱に染める。今までにこんなことをたくさんしてきたが、しかし、今日ばかりは緊張の度合いが違う。6月、最後のイベントにして、新生徒会初のプロジェクト、文化祭があるからだ。勿論、去年も経験している二心が、それごときで緊張するはずがない。二心が緊張しているのは、今日の一番大きなイベントの先陣──つまり、見本役として、一番手で行かなければならないのだ。私と共に。というのも、そのイベントというのが、カップル向けのイベントで、学校中を回って、各所に存在するポイントを巡り、スタート地点の体育館に帰ってくるというものだ。そして、これを見事にクリアできたカップルには、私と二心が行った、玄札テーマパークのカップルチケットが貰えるらしい。私たちが行ったときよりもさらに豪華らしい。残念ながら、私と二心は一度行っているし、今回の行動もあくまで見本なので、貰えないらしい。少しばかり残念だが、こればっかりは仕方がないだろう。それに私たちは一度行っているのだし。
「どうしたの舞さん?」
立ち止まっている私を不思議に思ったのか、普段と変わらない口調で私に話しかける二心。私と手を繋いでいない方の手に視線を向けると、汗が流れている。かなり緊張しているようだが、それに気付けるのはこの学校に一体何人ぐらいいるのだろうか。そんなことを考えながら、私は二心の手を握りかえし、私に緊張してくれているという事実が今更ながら、私の気分を高揚させる。
「いや、何でもない。」
私は彼に言葉を返し、掴んだ手を軽く引っ張り、先陣にふさわしい動きで、周りの人間に私と二心の仲のよさを見せつけつつ、学校中を回り始めた。
――――
「これで最後だね。」
二心は心からの笑顔を私に向ける。その笑顔はとても素晴らしく、出来ることなら写真に納めたいところだが、生憎デジタルカメラを持ってきておらず、携帯も今日は風紀委員室においてきているので、それもままならない。尤も、カメラを向けたときに彼がその笑顔を作り替えていないとは限らないのだが。自分のうっかりさに落ち込みつつも、しかしそれを表には出さず、私も彼に笑顔を向ける。校舎の造りの都合上、遠回りを何度もしなければならなかったのだが、カップルとしてはむしろ、そちらの方が嬉しいのではないだろうか。ルールの中にも、手を繋いでいなければならないというものがあるので、完全にカップル向けのイベントである。それでいいのか生徒会長。
「っと、もう時間が残り少ないね。急ごう。」
「あ、あぁ。」
考え事をしていたせいか、二心に手をとられ走り出す。こんな状況下で、言うのもなんだが――今、私と二心はとてもカップルみたいではないだろうか?手を繋ぎ、引っ張られて走るということがこれほどドキドキすることとは知らなかった。頬が赤く染まる自分を認識しながらも、二心に引っ張られるがまま、走ったのだった。
――――
「「「「おめでとうございます!!」」」」
二心と共に走りきり、ゴールした私たちを待っていたのは、祝福だった。多くの女子生徒から、お祝いの言葉を送られ、その後崇められてしまい、その女子たちを宥めるのに時間をとられてしまった。そのため、二心が男子たちに囲まれてしまい、助け出すのが困難だと理解した私は、彼がそれを抜け出すのを待つことにした。……つまらない。二心を待っていた私を見たのか一身が私に近づいてくる。
「どうだったよ?俺の弟と回った感想は?」
開口一番から、苛立たしさMAXである。私は大人。自分にそう言い聞かせ、冷静さを保つ。彼のような人間にも優しく答えてあげるのが大人の務めである。
「役得だったよ。楽しかった。」
質問には正直に答える。楽しかったのは事実だし、一番に回れるというのはやはり役得だっただろう。周りの人に私と二心の仲を認めて貰えたようだしな。こういうのは、外堀から埋めていく方がよいはずだ。一身も私の回答を聞いて満足げに頷いている。……いくら私が大人だからって、寛容出来ることと出来ないことがある。一身のあの頷きを見るに今の私は、一身の掌で踊らされているようなものである。私とて、風紀委員長。元々は生徒会と対立する立場にいる存在だ。で、あるのならば、少しぐらい私が地雷を落としたっていいだろう。地雷になるかは分からないが。
「本当に役得だったよ。……で、一身、お前は火凛と回らなくていいのか?」
私が溜めて言ったその言葉を聞いた一身の時間が止まった。しかし、流石は生徒会長。一瞬の硬直の後、何事もなかったかのように振る舞おうとする。
「な、何を言ってるんだ?俺がか、火凛と回る必要性が分からないぞ?」
駄目だった。凄い動揺している。全然流石ではなかった。流石は生徒会長とか言っていた過去の自分を殴り飛ばしたくなる。なんとなく、からかえなさそうな雰囲気なので、二心の方を向くと、周りの男子は地に伏しており、二心の制服はボロボロだった。一体、何があったのだろうか。私は、気分の高揚のしすぎで、手を上げてこちらに歩いてくる二心に抱きついた。訳も分からず慌てていた二心が可愛かった。デジタルカメラを持ってきていない自分に心底呆れた。
読んでくださって有り難うございます。
なんと、ジャンル別(学園)日刊、25位を頂きました。嬉しさの余りpvを確認すると投稿していない日では考えられないぐらい上昇してて発狂しそうになりました。皆様の応援に感謝!!
てなわけで、文化祭のお話しです。しかも舞さん視点。途中の段階もう少し間の部分とか書いていたのですが、なんか作者が耐えられないぐらい甘くなり始めたので割愛。舞さん、貴方そんなキャラでしたか……?そう思う今日この頃です。




