観覧車
「………あーん。」
顔を赤らめて、チョコアイスののったスプーンを僕の口に向けて差し出してくる彼女を見て、僕の心臓は高鳴る。この手のイベントは心臓に悪いから余りやりたくないんだけど……。チョコアイスが溶けてしまっては勿体ないので、口に含む。うむ。美味しい。このしっかりとした甘さといい、くどくない後味といい、ここのチョコアイスは美味しい。
「じ、二心。二心のミントアイスを食べさせてもらえないだろうか……。」
顔が赤いままに僕に頼みこむ舞さんは、それはもう可愛くて、こういうのをギャップ萌えっていうんだろうなーと考えることができないほどに可愛い。僕は、彼女に僕のミントアイスが入っている器を舞さんに渡したのだが、それでは不服なようで、少しだけ目が鋭くなった。
「二心。」
鋭く低い声に、僕は肩を震わせ、そして、戦慄する。これは、薄々気がついていたり、いなかったりするが、僕のスプーンで、彼女がやったみたいに、彼女の口に運ばなければならないのか。………。ど、どうしよう。少し冷静になった今頃になって、自分がどれだけ恥ずかしいことをしていたのかに気づき、顔が赤くなる。僕は、冷静になった頭で、この状況を打破する作戦を考える…………。はっデジャブ!!前にもこんなことがあった気がする。その時は確か……。
「………はい、あーん。」
その時も確か、膝を屈するしかなかったはずだ。つまりは、僕は彼女には勝てないのだ。恐らく、遺伝子レベルで敗北しているに違いない。普段のイメージと違う彼女を見られたのは、よかったかもしれないが、そのせいで、僕は、何か大事なものを失った気がする。僕は、間接キスにびくびくしながら、残りのミントアイスを食べた。回りの目?はっ、そんなもの気にしてる体力、僕にはもう残されていない。
―――――(side一身)
「はい、あーん。」
俺は、回りの甘い雰囲気に耐えきれずに、つい悪ふざけで、火凛に自分の食べたアイスを食べさせようとする。因みに、俺の食べているアイスはバニラだ。
「…………。」
火凛はそんな悪のりした俺を、ジト目で睨んでいるような気がしないでもないが、というかぶっちゃけそういう風に見ているんだろうが、しかし、相手が悪かったな。俺がどれだけ生徒会室で、弟の冷ややかで、絶望と、失望、それからいろいろ諦めたような目で見られて来たと思っている。その程度の視線、俺には通じないわ。はーはっはっはっは。
………自分でいってむなしくなってきた。こんなことしてるから、弟にそんな目で見られるのかもしれない。
「………。美味しいです。」
俺がいろいろと考えていると(スプーンは火凛の方に差し出したまま俯いているので、かなり変な体勢ではあるが)出し抜けに、火凛がそういった。俺がその言葉に釣られて顔をあげると確かに、あったはずのスプーンの上に乗っていたバニラアイスがなくなっている。あれ?てっきりさっきの視線は「会長、それ以上馬鹿なこと言いますと、副会長に全てばらしますよ?」というタイプの視線だと思ったのだが、どうやら違うようだ。なんで俺は自分の弟である副会長に怯えているんだ。俺、会長なのに。
「………。」
俺が、暫く黙っていると、彼女は、俺の前に自分の食べているアイスをのせて、差し出す。これは……。俺に食えということなのか?まぁ、間接キスを気にするような間柄でもないし(俺も彼女もそういった感情は持ち合わせてはいない。)俺は、スプーンの上にある黄色いアイスを食べた。
「………。反応に困るんだが。」
俺が食べたアイスの味はカレー味だった。
―――――
「もう、夕方だねー。」
「そ、そうだな二心。そろそろ閉園の時間だから、私は最後になりたいやつがあるのだが。の、乗ってもいいだろうか。」
「な、なんかいつもより口達者だね……。うん。いいよ、舞さんの乗りたい奴に乗ろう。」
「ほ、本当か!?」
目をキラキラさせて、瞳を輝かせ、いつになく彼女は、綺麗に笑う。勿論、それは僕の主観でしかないのだろうが、しかし、やはり彼女は綺麗だった。僕には、彼女が何に乗りたくて、どんなことをしたいのか、このときの僕には、皆目検討もつかなかった。
―――――
赤く、紅に染まった、黄昏時、僕は視線を前に向けないようにしながら、もうじき沈む太陽の方へと視線を向ける。今日、一緒に来た、僕の連れ添い刃羽 舞は僕の前に座っている。横の窓から見える太陽から、視線を少し下に向ければ、僕の住んでいる町まで見渡すことができる。大通りでは、小さい子供たちが家に帰ろうと、歩いている光景が目に写る。少しずつ上がっていく景色に、気分が高揚するのを感じる。
「二心。」
彼女は、僕の名前を呼ぶ。僕は、その時観覧車に乗って始めて、真っ直ぐ彼女を見た。夕日が指しているためか、彼女の顔は僅かに赤く、何かに緊張しているのか、少し声にいつもの切れがないように感じる。こうして、見ると、本当に綺麗である。整った顔立ちもさることながら、その凛とした雰囲気が今の情景と妙にマッチしてしまっている。
「言いたいことがある。」
普段ならば、そんなことは言わず、言いたいことを言うのにーーー、いや、あのときから、僕のことを気遣って、一度もそんなことはなかったのかもしれない。夕方というのは、どうやら人を感傷的な気持ちにするようだ。でなければ、僕が少しでも過去に触れるようなことを考えるはずがないんだから。
「二心。私は、お前がーー。」
「駄目だ!!」
突然、喉から口をついて、言葉が出る。僕は、その行動にすごくあせる。まだ、彼女はなにもいっていないのに、僕は、何を言っているんだろう。失礼だ。だけど、一度、口をついて出た言葉は止まらない。
「駄目なんだ、舞さん。今の僕じゃ。僕の自意識過剰かもしれなけど、舞さんは、僕に好意を寄せてくれているかもしれない。だから、駄目だ。僕にはまだ、舞さんを幸せにできない。」
何を、本当に何を言ってるんだ僕はーーー。これで、本当に自意識過剰なだけだったら、笑い話にもならない。なるほど、こうやって僕の黒歴史は形作られていくのか。僕は、脳の片隅でそんな風に全てを放棄して、自暴自棄になる。本当、僕は何をやっているんだ。まだ、彼女から、告白すらされていないのに。きっと、今の僕は、夕方のせいで、少し変になっているんだろう。少しだけ過去を思い出して、感傷的な気持ちに。
「………分かった。私は、お前が私を幸せにしてくれる日まで待っていることにするよ。」
舞さんは、寂しげに、悲しげに、瞼を閉じてそう答えた。そう答えさせた僕は、どこからどう見ても。
駄目な男だ。
読んでくださってありがとうございます!!
びっくりするぐらいの急展開。観覧車の部分だけで、丸々とってもよかったかもしれません。なにより、二心君が、ごちゃごちゃ考え始めたことに作者が一番驚きです。
あれ?なんか地の文の流れ、急じゃね?ーーーー気のせいです。
次回から第三章!
きっと今度こそは、詐欺じゃないと(作者が)信じてる。




