和宮 二心の受難、もとい幸福
少し、似非シリアスっぽいの入ります。ただし方向性がシリアスじゃないです。
僕は、近づいてくる彼女の瞳を眺めていた。
そして、彼女はその頬を朱に染めたまま、その唇を僕の額に落とした。
その事実だけを理解するのにかかった時間は、彼女の唇が僕の額を離れて三秒後。そして、僕の脳が思考を始めたのは七秒後、最後にもう一度、事実を理解するのに二秒かかった。正統派美女である彼女の瞳を見つめながら、僕の体は、急速に熱を帯び始める。恐らく、彼女から見た、現在の僕は爪先から頭のてっぺんまで、真っ赤で、情けないぐらい頬が赤いだろう。彼女に顔を押さえつけられているため、彼女のその真っ直ぐに僕を見つめる瞳から、逃れることはできず、心臓は早鐘を打ったように鼓動し、自分の胸の鼓動が彼女に聞こえているんじゃないかと脳が一種の錯覚を覚える。本当に美人だーーー脳の一部では、思考回路が既に一部停止して、今更ながら、彼女の整った顔の造形について考えている。彼女の額へのキスという、衝撃から生き残った正常な思考回路は、彼女の瞳を見つめるな、お前の理性が持たなくなるぞ、と警告を始める。だから、僕は、彼女のその綺麗で真っ直ぐに僕を直視する瞳に名残惜しさを感じつつも、自らの理性を律するために瞼を下ろす。視界は黒く閉ざされ、僕と彼女の息遣いだけが聞こえる。ともすれば、危ないシチュエーションではあるが、僕に主導権はないため、なんとかこのままやり過ごせることを祈るしかない。
そして、僕の額に先程感じた感触を感じる。
モシカシテ、コレハ、キスデスカ?思わず言葉も片言になってしまう。額に感じた感触に戸惑いを感じつつも薄目を開けて、彼女の様子を見る。そこには、彼女を見つめる僕が映し出された彼女の瞳が映し出されており、その状況が指し示す答えはたったひとつ。オンリーオン。彼女は再び、僕の額へその綺麗に膨れた唇を落としたのである。彼女は僕の映し出された瞳を持って、僕に頬が赤いままに恥ずかしげに笑いかける。………これがセカンドインパクト。僕の理性は膝枕をされていただけの時の数倍、いや、数百倍の速さを持って削り取られていく。これが俗に言うニコポ。使い方正しいか分からないけど、しかし、理性が削られていく。僕の全身は更なる熱を帯びる。目を開けていれば、彼女の真っ直ぐな瞳が僕を直視する。目を閉じれば、脳細胞が死滅する彼女からのキスが待ち受けている。つまり、僕に助かる方法はない。どちらを選んでも、僕の理性は削られていく。端から誰もが羨むような状況だが、自分がその立場に立てば誰もが悔やむ状況。この状況で耐えることが出来るのは、よっぽど精神力の強い人か、普通ではない性癖を持つ人だ。僕の兄ほどのハイスペックぶりならば、言葉を発し、彼女を言いくるめられたかもしれないが、生憎僕は、そこまでハイスペックではないし、彼女に言い返す言葉も持っていない。
彼女は、このキスをお返しだと言った。
で、あるのならば、僕が彼女の額にしたキスは一度であるから、二度目以降は無効であるはずなのだ。むしろ、そうでなければ困る。これ以上、そんなことをされれば、僕の理性は崩壊し、彼女に襲いかかり、そして、返り討ちにされるという最悪のシナリオが出来上がってしまう。そう考えると、彼女に主導権があるのは非常に不味い。このまま延長戦に持ち込まれれば、あっさりと彼女に軍配が上がってしまう。僕の生命をここで途絶えさせるわけにはいかない。僕がやられたら、一体誰がメリアさんと、アスアレーノさんの夕食を作ると言うんだ!!僕は、ここで負けるわけにはいかないんだ!!
などと、心を落ち着かせるために、虚勢を張り、大口を叩くのは良いが、しかし、何の策もなく彼女に挑めば、負けることは明白。少しずつ衝撃から蘇生された脳細胞のお陰で、思考はクリアになり、この状況を打破する策を考え始める。
僕の生命は風前の灯。
僕使うことが出来るのは両手のみ。ただし、暴力に訴えかければ返り討ちにされる。行動を起こせば、押さえつけられ、バッドエンド。行動を起こさなければ、押さえつけられたままデッドエンド。思考しろ。思考するんだ僕。この状況を打破する手立てを。一手じゃなくていい。打てるてを全て考え出すんだ。
………。
……………。
…………………。
駄目だ。思い浮かばない。先程まで淀んでいた思考がクリアになればクリアになるほどに、この状況を打破する策を考える脳が僕に無いことに気づく。これは、不味い。異世界に召喚された時なんかよりも、よっぽど死の危険が近い。灯台もと暮らしとはこの事を言うのか…!!
その時、僕に救いの手がさしのべられる。
チャイムが鳴ったのだ。この家ーー舞さんの家のベルが来訪者によって押されたのだ。彼女は一人暮らしだと聞いているので、来訪者には、彼女が応答するしかない。そうなれば、僕の勝ち、彼女のこの拘束から解放される。もう、この家を今すぐ出ていきたいなんて高望みはしない。だから、この状況を抜け出させてくれ!!彼女は、僕に向けるその綺麗な顔を一瞬歪ませて、僕の頭から手を離す。僕が解放されたと思うのもつかの間、彼女に手を捕まれ、立ち上がらせられる。そして、何も言わず髪の毛に隠されて少ししか見えない耳を真っ赤にしながら僕の手を引っ張る。…………。あのー舞さん?貴女そんなキャラじゃないですよね。そう言いたいのを必死にこらえ、彼女にされるがままに引っ張られて行く。そして、広い家を歩き回ったのち、玄関へと向かう。何度か扉を開けるのを躊躇うように、扉に手を触れさせたり引っ込めたりしたあと、彼女は扉を開ける。そして、そこにいたのはーーー。
「熱々だな。二心!!」
ニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべた、僕の上司および、部下たちだった。
記念すべき三十話目です。見切り発車で出発したため、終着地点も決めておらず、空気になっているキャラが多数存在しますが、一応、全員の性格を出しきって終わりたいですね。まだまだ続くと思いますが、宜しくお願いします。決して暇だったから、連日投稿をしたわけではありません。えぇ決して。




