風紀委員長
僕が起きたことに気づいた彼女は、添い寝を止めベッドから立ち上がり体を伸ばしつつ欠伸をする。
「うむ、起きたか。おはよう。和宮 二心くん。」
火凜さんに負けず劣らず凛とした雰囲気を放ち、火凜さんと違い言葉まで凛としている彼女の声を聴くと目が覚める。去年と変わらず、腰の下まで伸びた丁寧に手入れされている後ろで一つくくりにされている髪は健在のようだ。相変わらずきれいな肌をしている。女性にしては少し身長が高めだろうか。少なくとも僕より高いことは確かだ。それって結構大きいよね。
「おはよう、舞さん。」
僕は基本的に親しい女子は下の名前で呼ぶことにしている。親しいのに上の名前で呼ぶって、ちょっと他人行儀じゃない?なんて思ったりもするので、彼女のことも下の名前で呼ぶ。うちの高校の生徒会と委員会はとても仲がいいことで有名である。先代、つまり僕たちの一つ前の代はそこまで仲が良かった訳じゃないみたいだけれど……。そして、そんな今でこそ仲のいい委員会の一つ、風紀委員の長である彼女だけれど、もちろんのことながらハイススペックである。というよりも、委員会の長は皆ハイスペックである。何故、僕を差し置いてハイスペックなんだろうか。なんだか泣けて……………。べ、別に泣いてないよ。目から朝飲んだココアがね?ろ過されて涙腺から出てきてるだけだからね。
さて、話を戻そうか。
「それで、舞さん。ここはどこなの?」
「ここ?ここは異世界だとか何とか一心がいっておった気がするが。」
「あぁ、そう。ありがとう。」
さて、ここはどこだろう。彼女の言葉を信じない訳じゃないけど、生徒会長のいった言葉だもんな。異世界があると証明してるつもりなのかもしれないけど、これでは肝心の証明するものが何もない。僕は少し痛くなった首をさすり、彼女以外に視線を移す。
部屋の雰囲気も作りも、至ってシンプル。およそ、四畳程度しかないであろうこの部屋は、ベッド以外に何も置かれていないためじゃ、広く見えて少し寂しい気持ちになる。扉は閉められており、窓は小さいものが一つしかない。そこから入ってくる光もごくわずかで、良く彼女の姿が分かったなというぐらいの光しか入ってきていない。そして辺りを見渡しはじめて気づく。
「あれ?他の生徒会役員は?」
生徒会長の言葉を信じるなら、世界でも救いに行ってるのかなぁとか推測してみるんだけど、自分で考えるよりも、恐らく彼女に訊ねる方が早いと思われるので、素直に彼女に聞く。
「……どこかへ行ってしまった。」
ばつが悪そうに僕の質問に答える彼女。僕を置いて皆どこへいったんだ。まぁ、僕をつれていったとしても何の役にも立たないだろうけどね!皆、僕よりハイスッペクだから、足手まといを危険にさらさないように置いてっただけだと思うけどね。別に気にしてないし。僕だけ仲間外れにされたこととか別に全然。
「そう言えば、どうして舞さんはここにいるの?」
「火凜に呼ばれて来たんだが、私も良くわからない。」
呼ばれて来たって、風紀委員の集まりはどうしたのだろうか。えっ、もしかして切り上げて来た?そうだとしたら、少しひどいことをしてしまったのではないだろうか。
僕を除く生徒会役員は重ね重ね言うようだけど、ハイスッペクだ。だから、誰か一人がいなくても仕事を回そうと思えば回せる。だけど、委員会は違うのだ。大抵の場合、委員会は一人の圧倒的能力の長を頂点にして出来ている。それゆえ、委員会は長が取り仕切り話し合いを進めていく。逆に言ってしまえば委員会の長がいなければその委員会は回らないと言ってもいいのだ。風紀委員長である彼女を呼ぶということは、風紀委員の仕事が回らなくなること請け合いである。いくら、委員長クラスの人間がハイスッペクだったとしても、一人でできることにはやはり限界あるのだ。
「気にしなくても、構わない。」
僕の心境を読んだように呟く彼女。そう言われてもなぁ。気にするものは気にしてしまうんだよなぁ。人間、気にするなと言われると余計気になるものだし。だって、身内のせいで迷惑かけたんなら誰かが謝らなければいけないだろう。だって、迷惑かけたんだし。僕を除くハイスペック生徒会長率いる、生徒会役員が悪いんだから。体の奥底から、申し訳ないという感情と罪悪感が込み上げてくる。彼らが戻ったら、取り敢えず説教かな。そう思い拳を握りしめた僕を見て、僕の考えを恐らく悟ったであろう舞さんはため息をついた。
「君の首に手刀を入れたのは私だ。」
彼女に言われて僕は首の後ろ辺りをさする。生徒会室での、意識を失った首への衝撃は彼女がしたもののようだった。その言葉によって罪悪感が少し薄れた(というかそれが狙いなんだろう)けど、そもそも彼女に手刀を入れるように促したのは生徒会の連中だろうから、やはり悪いことをしてしまったと感じてしまう。彼女としては、僕が手伝いに来たところで何の役にも立たないと考えているのかもしれないけど、それでは僕の心が穏やかではないので、心の中で学校に戻れたら、彼女を手伝おうと固く誓うのだった。
読んでくださってありがとうございます!!
見切り発車で第三話。今後の展開は何も考えていません!!頑張ります。というわけで皆さんよろしくお願いします。