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第7話 有力情報

「メイクは派手だけど、ちょっと暗い感じのする子でしょ? ほらぁ、ミツヒロといっしょに居た子じゃない?」

巻き毛の子は両隣の女の子達に確認を取ったが、その二人は覚えていないようで、首を傾げている。

「本当に? そのミツヒロって人、君の知り合い? 連絡とか取れる?」

春樹が勢いよく訊いてきたので巻き毛の子は少し困ったように表情を曇らせた。


「でも自信無いなあ。勘違いかもしんないし。それにミツヒロとはたまたまカフェで盛り上がって1、2回大勢でカラオケ行ったくらいで、良く知らないのよ。10日くらい前にチラッとその子によく似た子と歩いてるの見てさ。その子中学生くらいに見えたもんだから、ヤバくね?って思ってさ、なんか覚えてたんだ。特にミツヒロはタイプじゃないし、ホントはどうだって良かったんだ」

「ねえ、そのミツヒロって人の友達も知らない?」

春樹は相手がひかないように、なるべく穏やかに話をした。

3人はしばらく考え込んでいたが、何の情報も持っていないらしく、残念そうに首を横に振った。

春樹は落胆を隠し、もし何か思い出したら連絡をして欲しいと自分の携帯番号を渡し、礼を言って少女たちと別れた。


他人のそら似かもしれないが、今のところ唯一の手がかりだ。

まだ霞をつかむような感じだが、それまでの疲れと緊張がフッと軽くなる気がした。



「あれ? 春樹?」

不意に背後から声をかけられ振り向くと、ファーストフード店の特大コーラとハンバーガーを手に持った隆也が、店の入り口に立っていた。


「何やってんの? こんな所で」

隆也が再び不思議そうな声を出した。

「隆也こそ何やってんの? 予備校じゃなかった?」

「今日はな、パスしたんだ」

平然と言う隆也。

「それってサボったって事?」

「人聞きの悪い。あくまでペース管理だ」

「おばさんが知ったら何て言うかな」

サラリと言う春樹に隆也は慌てて走り寄り、コーラを持ったまま春樹の首に腕を巻き付けた。

「言ったら殺す」

「その前に、隆也がおばさんにボコボコにされるな」

春樹は笑いながら返したが、7分くらいまでシャツを腕まくりした隆也の肌が一瞬首に触れてきたので、ドキリとしてさり気なく体を離した。

けれどその一瞬ですでに、親友が今朝、母親と進学についての酷い口喧嘩をし、かなりムシャクシャしていることを感じ取ってしまった。

すぐにじゃれてくる隆也の傍にいると、こういう事故はたまに起こる。避けられない、不可抗力の事故。


「春樹は何? サボってゲーム?」

隆也の声にハッとして、春樹は我に帰った。


「まさか。仕事中だよ」

「なになに? 何かの調査?」

興味深げに目を輝かせ、隆也は訊いてくる。

「なんだよ。やくざな仕事だとか言ったくせに」

笑って返しながらも春樹は、自分の心の隅にいつもの黒い不安が漂っているのを感じていた。


・・・心を覗かれているのだと、この親友が知ったなら、どんな反応をするのだろう。


隆也はいつでも一点の曇り無く、春樹を大切な友人として想ってくれている。

時たま触れて、流れ込んでくる一瞬の感情は、春樹に関してはこの秋の空のように純粋に澄んでいた。

けれども当の春樹はそんな隆也にさえ、隠し事をしている。

隆也を傷つけるかもしれない、決して打ち明けられない秘密・・・。


「なあなあ。教えてよ」

「・・・そんなこと、教えられない」

春樹は静かに素っ気なく言うと、再び人混みに足を向けようとした。

「冷たいなあ。人捜しだろ? 俺も何か協力出来ない?」

「慣れない人がすると警戒されるんだ」

「そう言うもんかなあ。・・・わかった。じゃあ、ここで春樹の仕事っぷりを大人しく見とく」

隆也はニッと笑ってさっきまで女の子3人組が座っていたベンチに腰掛け、コーラのストローに口をつけた。


「そんなことして遊んでないで、それ食ったら予備校行けよ?」

春樹はどうにもしつこいその友人に思わず笑うと、再び仕事に取り掛かるべく、人ごみに足を向けた。

その友人の視線に、不思議なほど暖かなものを感じながら。



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