主君の勤め
そこから何時間か歩いて俺たちの城、稲葉山城に戻ってきた。
その後いろいろあって…腰を落ち着かせたのは日がとっくに沈んでからだった。
「ご無事でのお戻り、なりよりでございます」
「…隼人佐」
寝ることはできないだろうけど、布団は入るかと考えていた俺を訪ねて来たのは隼人佐だった。
今回彼は出陣せず、城で留守番していた。
「そういえば殿は初陣でしたね」
「あぁ」
「…いかがでしたか」
隼人佐に言われて今日何をやっていたか思い出そうとする。
しかし何も思い出せない。
いや、何もやっていないからだ。
俺は今日、何も成していない。
顔が暗くなっていたのか隼人佐が口を閉じた。
「そういえば」
「はっ」
「隼人佐と長井先生…甲斐守は親戚か?」
隼人佐は少し考えた後、答えてくれた。
「いえ、厳密に言うと違います」
「そうか、そうなのか」
「…何か」
いつもはあんまり変わらない表情が少し不思議そうに見える。
こういう表情はあんまり見ないなとか思いながら答えた。
「死んだ二人の家族はどうするべきか」
「今まで通り、息子を取り立ててやればお二人も満足するのでは」
「それはそうだが、そうではなく」
では何故と言いたげな顔の隼人佐に向かって口を開く。
「なんと説明しようかと…」
「説明…ですか」
急に家族が死んだんだから説明くらいしたほうがいい。
現代だったら殉職とかそう言うのは上司の方からなんかあるだろう。
しかし俺の考えは隼人佐によって却下された。
「その必要はありませぬ」
「下野守殿も甲斐守殿も殿の家臣です」
「死ぬのは覚悟の上かと」
それは知っている。
戦国時代、わざわざ死んだ家臣の家族に主君自ら説明などしない。
「分かってる」
「それでは…」
「それでも、だよ」
相変わらず不思議そうな顔をしていた隼人佐だったが、息を大きく吐くといつもの顔に戻った。
「分かりました」
わがまま言っちゃったかな。
でもこれはやっぱり飲み込めないところではあるから。
こう言うところだけはしっかりしときたい。
「迷惑をかける」
「いえ」




