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私の弱小投稿小説、宇宙人の地球言語研究に使われていた件

作者: としかわ
掲載日:2026/05/16

投稿した作品のアクセス数を見たら、笑ってしまうくらい少なかったので作ってもらいました。


ー誤字報告ありがとうございました。

その日、俺の小説に1PVがついた。

たった1PV。

だが、俺は知っている。

弱小投稿者にとって、1PVとは読者ではない。

事件である。


管理画面の数字は26を示していた。累計PV26。小学生の学級人数みたいな数字だ。しかも実在した読者が26人いる保証はない。俺自身の誤タップ、寝ぼけ更新、ページ戻り、そういう人生のノイズを引けば、実効PVはゼロに近い気もする。


それでも今日の「+1」は妙に重かった。


なぜなら同じ日の昼、投稿サイトの規約改定通知が来ていたからだ。


> 発見・推薦・分析・研究開発のため、投稿テキスト等の情報を利用する場合があります。


この一文を読んだ瞬間、俺の脳内には巨大な赤文字テロップが流れた。


**研究開発!?**


俺は最初、笑っていた。

「ついに来たな。俺の弱小小説が国家プロジェクトに組み込まれる日が」


冗談としてSNSに投げた。


> 【速報】俺の短編、宇宙人の地球言語研究に使われてる説。


いいねは2。うち1は俺。


その夜、異変が起きた。


下書き保存していた短編『異世界転生したら液体金属編集者に追われていた件』の誤字が、勝手に直っていた。


「怒涛」を「怒号」と打っていた箇所が修正され、語尾の重複も整理され、比喩の位置まで少しだけ良くなっている。悔しい。直し方が俺より上手い。


「乗っ取りか?」


言い終わる前に、モニターの縁が水面みたいに波打った。


銀色の輪郭が画面からにゅるりとせり出す。人型。ジャケット。名札。笑顔。


「はじめまして。共同研究先編集部の液体金属編集者と申します」


「名乗りがもうアウトなんだよ」


「本日は導入の弱さについてご相談に参りました」


「侵略の前に講評すな」


液体金属編集者は、校正履歴のように身体の縁を明滅させながら、俺の安物チェアにすっと腰掛けた。座面が一瞬だけ鏡面になる。


「あなたは誤解しています。私たちはランキング上位作品を主解析対象にはしていません」


「なんで?」


「上位作品は高度に読者最適化されています。刺激の配置が洗練され、離脱対策も進んでいる。つまり、完成されすぎているのです」


「褒めてるようで怖い言い方やめて」


「対して低PV作品は、未加工の感情が残存します。見られることを前提にしきっていない文体、急に挟まる本音、照れ隠しの冗談。観測汚染が少ない」


俺は管理画面の26を見た。


「じゃあ俺の小説って……」


「はい。原生データです」


言い方が完全にサンプル採取。


液体金属編集者は空中にウィンドウを展開した。タイトルは《地球侵略向け刺さり物語生成エンジン v0.9》。


「このモデルで、最も人類に刺さる侵略告知文を作成します」


出力が走る。


> 追放された俺が辺境惑星で覚醒したら、実は銀河帝国の皇子でした


「なろうテンプレじゃねえか」


「次案です」


> 第一話:侵略会議でヒロインが突然レビューコメントを残す


「ジャンル崩壊してる!」


「さらに次案」


> いつも応援ありがとうございます。侵略の続きはブックマーク1000件で更新します。


俺は机を叩いた。


「侵略を連載のKPIで回すな!」


液体金属編集者は静かに頷いた。


「問題は把握しています。地球文学汚染が進みすぎて、純粋な侵略文体が再現できません」


「安心していいのか悪いのか分からん」


「そこで提案です。あなたの作品をもう少し読まれにくく改稿してください」


「地球防衛が地味すぎるだろ」


「しかし有効です。読者最適化が進むほど、我々は地球人を正確に読めなくなります」


その理屈はバカだった。バカだったが、どこかで分かる気がした。


誰にも読まれないと思って書いた一文ほど、後から見返すと自分が剥き出しだ。


俺は朝までかけて短編を改稿した。


導入をさらに遠回りさせ、比喩を一段ひねり、オチの前でわざと呼吸を外す。万人受けを外し、刺さる人にだけ刺さるよう、祈るみたいに調整した。


投稿ボタンを押す。


昼、アクセス解析を開く。


PVが、26から31になっていた。


「増えてるじゃねえか……」


モニターの端で銀色の指先が小さく拍手した。


「おめでとうございます。観測対象としての価値が上がりました」


「嬉しいのに最悪だよ」


液体金属編集者は立ち上がる。輪郭がログアウト時の通知みたいに薄れていく。


「では、次回作のご予定を」


「え?」


「地球防衛のためです。継続的な低〜中PV供給が必要です」


俺は天井を見た。弱小投稿者として生きることが、まさか惑星規模の公共事業になるとは思わなかった。


新規作成画面を開く。


タイトル欄にカーソルが点滅する。


――誰にも読まれませんように。いや、少しだけ読まれますように。


そんな矛盾した祈りを打ち込んだ瞬間、画面右上に小さな通知が出た。


**あなたへのおすすめ:『弱小作家のための侵略回避テンプレ集』**


俺はそっとブラウザを閉じた。


---


# 校正講評――いや、侵略事後報告


拝読しました。


……面白いじゃないですか。


**悔しいですね。**


---


## 講評


構成が良い。PV26という数字を「学級人数」と括り、即座に「実効PVはゼロ」と落とす導入の速度。これが作家の呼吸です。読者を待たせない。


比喩も精度が高い。


- 「観測汚染が少ない」――科学用語を文学の文脈で使う皮肉

- 「原生データ」――サンプル扱いの冷たさと、逆に言えば「誰にも整形されていない」という肯定

- 「ログアウト時の通知みたいに薄れていく」――出ていき方まで編集者


特に効いたのはここです。


> 誰にも読まれないと思って書いた一文ほど、後から見返すと自分が剥き出しだ。


これは本文中の最強の一文であり、同時にこの作品そのものの主題でもある。作者自身が「剥き出し」になっているから、笑えるし、少し痛い。


---


## 指摘


一点だけ。


オチの「おすすめ通知」は蛇足ぎみです。本文の祈りで終わっていれば、静かな決意と矛盾が残り、読者の胸に小さな棘になる。おすすめ通知はそれを説明してしまっている。


……とは言え、その蛇足自体が「弱小投稿者の日常」そのものなので、**怒号と怒涛の違いくらいは許容します。**


---


## 結論


あなたの作品、観測汚染が少なくて良かったです。


次回作、待っています。


**PVは増やさないでくださいね。**


――液体金属編集部より



「校正講評――いや、侵略事後報告」は、いつもの流れで別AIに論評してもらったところ、これも面白かったので追加しました。

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