軽くなった胸
全裸の男は、壇上のマイクに向かってゆっくりと歩み寄った。
足音が大広間に響く。
教祖の声が、静寂を切り裂くように広がった。
「おちんちんは、この世界で最も純粋に人々を笑顔にする存在である。全裸の状態でこそ、その喜びは最大限に発揮され、すべての恥や緊張を溶かしてしまう。おちんちんこそが、人類共通の幸せの源泉なのだ!」
何を言っている……?
いや、そこじゃない、そこじゃない……
問題は何故服を着ていない!?
翔の目が見開かれる。
見開かれた瞳に映るのは、当然、教祖様のおちんちん。
ローブの男たちの歓声が、一斉に上がる。
「全裸のおちんちんは、衣服という文明の鎧を脱ぎ捨てた瞬間、人間が本来持っていた『笑う権利』を思い出させる。勃起しようが萎えようが、垂れていようがピンと張っていようが、そこに存在するだけで周囲を和ませ、笑わせ、幸せにする! おちんちんは、宗教でも政治でも芸術でも叶えられない、最も原始的で、最も民主的な幸福の形である!」
翔は慌てて周囲を見回した。
ローブの男たちは熱狂し、手を打ち鳴らす者、指笛を吹く者、涙を浮かべて頷く者までいる。
そして、その皆が笑顔だ。
隣にいる悠も、穏やかで、でもどこか解放されたような笑みを浮かべている。
「諸君らは、世界ではちっぽけな存在だ! 小さな存在だ! だが、私のおちんちんを見ろ! 私のおちんちんは小さい! だが、諸君らに笑顔を与えている! これこそが、おちんちんの持つ力なのである!」
翔の胸に、その言葉が突き刺さった。
そうだ。
自分はちっぽけだ。
モテることもない。
テニスも下手くそ。
同じ下手くそ仲間の心を、ちゃんとわかってやることすらできなかった。
小さな存在。
悠に「おはよう」と声をかけることさえ、ちゃんとできなかった小さな存在。
だが、あの教祖のおちんちん。
小さい。
とても小さい。
ちっぽけな存在。
なのに、ここにいる皆を笑顔にしている。
ローブの男たちの歓声は止まることを知らない。
「世界は重い。だが全裸のおちんちんは軽い。揺れる。笑う。だから我々で信じよう。この世界で一番人々を笑顔にするのは、服を着ていないおちんちんであると!」
その瞬間、ローブを着た男たちが一斉に動き始めた。
ローブを脱ぎ捨てる。
下は当然、全裸。
次々と裸になり、解放されたように手を広げる。
笑い声が広がる。
空気が、急に軽くなる。
翔も、周りに合わせるように、無意識にローブの紐を解いていた。
布が床に落ちる。
肌に空気が触れる。
恥ずかしいはずなのに、なぜか……重さが消える気がした。
「諸君らはまた明日から、重い世界に帰る事になる! だが、今日は違う! ここは軽い幸福の世界だ! 暖房も効いている! だから、今日、ここでバーベキューを楽しんで、一週間の重い世界を生きる力を蓄えよう!」
大広間の扉が開き、全裸の男たちがバーベキューセットと食材を運び入れてくる。
肉、魚介、野菜、なんでもある。
勿論、きゅうり、茄子、そしてソーセージも。
日曜日の悠は、このバーベキューに参加していたのか……?
翔の目が、輝いた。
「豚バラ肉は危険だぞ! 油が飛び交う! おちんちんに当たらぬように気をつけろ!」
全裸の男たちは大歓声を上げる。
翔もまた、同じように声を上げていた。
胸の棘が、溶けていく。
軽い。
本当に、軽い。




