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幸せを手にする方法  作者: 星狼


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2/6

日曜の秘密

ファミレスの窓際席は、土曜の夕暮れの光で少しオレンジ色に染まっていた。

高橋翔はメニューを眺めながら、向かいの佐々木悠をチラチラ見ていた。

練習後の汗がまだ乾ききっていないTシャツが、妙に重く感じる。


「俺はチーズハンバーグ定食でいいかな」

翔が言うと、悠はメニューを閉じて頷いた。

「俺もそれで。最近、食欲出てきたんだよね」


ウェイトレスが注文を取りに来て、席を離れる。

翔はフォークを指で軽く叩きながら、切り出した。


「今日の練習、悠結構頑張ってたな。彩花達とも普通に話してたし。前はあんまり絡まなかったのに、最近変わったよな」


悠は少し照れたように笑った。

「うん……なんか、みんな優しいんだよ。俺みたいな下手くそでも、ちゃんと相手してくれるっていうか」


翔の胸に、小さな痛みが走った。

下手くそ。

その言葉は、自分にも刺さる。

高校の時からずっと、自分も周りから「頑張ってるね」と言われてきた。

だが、それは褒め言葉なのか、ただの慰めなのか、ずっとわからなかった。


「でもさ、日曜だけ来ないよな」

翔は単刀直入に聞いた。

「土曜は来るし、金曜の飲みにも最近顔出すのに。日曜は何してるんだ?」


悠は一瞬、目を逸らした。

グラスの水を一口飲んでから、ゆっくりと言った。


「……別の集まりがあってさ。日曜の午前から、ちょっと時間取られてるんだ」


「集まり?」

翔は眉を寄せた。

「サークル? バイト?」


悠は首を振って、穏やかに笑った。

「違うよ。もっと……心が軽くなる場所っていうか、みんなで笑える場所を見つけたんだ。俺みたいなやつでも、受け入れてくれるんだよ」


小さな違和感。


翔は悠の言葉を反芻する。

「心が軽くなる場所っていうか、みんなで笑える場所を見つけたんだ。」


なんだそれは。

サークルにいる悠の心は軽いように見える。

皆で笑い合っているようにも見える。

それなのに、サークルとは別の、心が軽くなって、みんな笑える場所……?


一体何処なんだ。


それに、そんな場所が存在するなら、何故はっきりと言葉にしない。

「心が軽くなって皆で笑える場所」

何故、そんな曖昧な表現で答えるんだ……?


翔の胸の棘が膨らんでいく。


「それって……ヤバい宗教とかじゃねえよな?」

翔は半分冗談めかして言った。

だが声は少し震えていた。


悠はくすっと笑って、首を振った。

「違うよ、そんなんじゃない。ただ、なんか……世界が全然違うんだ。重いこととか、恥ずかしいこととか、全部脱ぎ捨てられる感じっていうか。俺、下手くそで、いつも自信なかったけど、そこに行くと、なんか……軽くなるんだ」


翔は黙って聞いた。

軽くなる。

脱ぎ捨てる。

その言葉が、頭の中で反響する。


「俺も下手くそだけどな」

翔は小さく呟いた。

声が少し掠れていた。


悠は翔の顔をまっすぐ見て、静かに言った。

「翔も来てみたら?明日、一緒に行ってみない?絶対、軽くなるよ。俺達、同じテニスの下手くそ仲間だろ?一緒に、ちょっとだけ世界を変えてみようよ」


翔はグラスを握りしめた。

指先に力がこもる。

心配だった。

嫉妬もあった。

でも、一番強く胸を突いたのは、

『同じ下手くそ仲間』という言葉だった。


悠は変わった。

俺はまだ変わっていない。

でも、変わりたくて、でも怖くて。

それなのに、悠は笑顔で誘っている。


「……わかった」

翔はゆっくりと息を吐いて、言った。

「行ってみるよ。明日、一緒に」


悠の顔が、パッと明るくなった。

「マジで? よかった。じゃあ、明日の朝、駅で待ち合わせしよう。楽しみにしてて」


翔は頷いた。

でも、心の中では、何かがざわついていた。

これは、ただの集まりじゃない。

何か、違うものだ。


でも、行かずにはいられなかった。

同じ下手くそ仲間として。


その時、ウェイトレスがトレイを持って戻ってきた。

「チーズハンバーグ定食、お待たせしましたー」

二つの皿がテーブルに置かれる。

湯気が立ち上り、チーズの香りが漂う。


翔はフォークを手に取った。

一口、口に運ぶ。

味は、しない。


胸の棘が、まだそこにあった。

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