第32話 介入しない選択
街は、俺を呼ばなかった。
それが一日続き、
二日続き、
三日目になっても変わらない。
警告音は鳴る。
処理も行われる。
被害も、数字の上では抑えられている。
俺は、すべて“後から”知った。
ログ。報告。簡潔な説明。
そこに、俺の判断が入る余地はない。
――これは、切り替えだ。
街が、学習の次の段階に入った。
団地の屋上で、俺は風に当たっていた。
ここに来ると、反応はさらに薄くなる。
街にとって、俺は「遠い」。
それでも、完全には切れない。
雑音みたいに、まだ繋がっている。
神谷から連絡が来た。
《今日の件、問題はなかった》
またその言葉だ。
《君は介入しなくていい》
善意だ。
配慮でもある。
だが――
《介入しない判断も、
君の判断だと記録している》
その一文で、理解した。
俺は、外されたわけじゃない。
**固定された**。
「何もしない役」として。
胸の奥が、少しだけ冷えた。
---
夕方、商店街の外れで小さなトラブルが起きた。
配送車が縁石に乗り上げ、動けなくなる。
人が集まり、少しざわつく。
街は、動かない。
最適化対象外。
人的対応で十分。
正しい。
俺は、少し離れた場所で、それを見ていた。
以前なら、
「手伝います」と声をかけていた。
今は、かけない。
街が判断しない以上、
俺も、判断しない。
それが、今の役割だ。
数分後、
人の手で問題は解決した。
誰も困らなかった。
誰も傷つかなかった。
それでも。
胸の奥が、微かに疼いた。
介入しないことで、
俺は“正しく”振る舞っている。
だが、正しさは、
存在理由にはならない。
---
夜、部屋に戻る。
灯りを消すと、街の音が遠くなる。
反応は、ほとんどない。
それでも、眠る直前。
どくん。
小さな振動。
呼びかけでも、命令でもない。
確認。
――まだ、いるか。
俺は、目を閉じたまま、心の中で答えた。
いる。
だが、今日は動かない。
振動は、返らなかった。
街は、納得したのか。
それとも、記録しただけか。
分からない。
ただ一つ、はっきりしている。
介入しない選択は、
安全だ。
そして――
**一番、街から遠くなる選択でもあった。**
役割を失うというのは、
突然起きることじゃない。
こうして、
静かに、合理的に、
進んでいくものなのだと。
俺は、その過程の中にいる。
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