第3話 予定外の振動
地下への立ち入り口は、商店街の外れにある。普段は目立たない鉄扉だが、今日は開けっぱなしだった。簡易的に張られた注意喚起のテープが、風に揺れている。
俺はヘルメットを被り直し、懐中ライトを点けた。
インフラ点検。
街が終わる前に、最低限の安全だけを確認する仕事だ。
階段を降りると、空気が変わる。湿った匂いと、コンクリートの冷たさ。ここは昔から変わらない。地上がどれだけ変わっても、下は静かだった。
……はずだった。
足を踏み出した瞬間、微かに床が鳴った。
ぎし、という音。
老朽化した建物では珍しくない。だから最初は、気にもしなかった。
配電盤の前にしゃがみ込み、数値を確認する。電圧は不安定だが、想定の範囲内。問題なし、とチェックを入れようとした、そのときだった。
――どん。
腹の底に響くような振動。
思わず顔を上げる。
上から物が落ちたような音じゃない。横でもない。下からだ。
地下深くで、何かが動いた。
無線が一瞬、ノイズを吐いた。
「……?」
もう一度、床が揺れる。今度ははっきりと分かる。周期的だ。偶然じゃない。
俺は立ち上がり、壁に手を当てた。コンクリートの向こうから、微かな振動が伝わってくる。機械の不調とは違う。もっと……不規則で、生々しい。
心拍みたいだ、と思った瞬間、自分で自分の考えを否定した。
馬鹿げている。
そのはずなのに、振動は止まらない。むしろ、ゆっくりと大きくなっていく。
天井から、砂がぱらぱらと落ちてきた。
「……やばいな」
無線に手を伸ばしかけて、ためらう。
この区域は、もう「優先度が低い」。報告しても、すぐには誰も来ない。
その判断を待たずに、警報が鳴った。
遠くで、何かが軋む音。
地上だ。
俺は舌打ちして、出口へ走り出した。
その背後で、地下全体が、確かに揺れた。




