第27話 選択の重さ
事故現場を離れても、胸の痛みは消えなかった。
怪我人は軽傷。
数字だけ見れば、それで終わりだ。
だが、数字の外側に残るものがある。
階段を使えなくなった住人の生活。
また一つ減った「安全な場所」。
俺は、商店街の外れに立っていた。
人の流れから、少しだけ外れた場所。
ここに来ると、街の反応がはっきり分かる。
静かだ。だが、遠くで何かが軋んでいる。
――次は、どこだ。
問いかけるつもりはなかった。
答えが返ってこないことも分かっている。
それでも、考えずにはいられない。
拒否すれば、被害が出る。
受け入れれば、別の被害が出る。
街は、常に「最小」を選ぶ。
だが、その最小が、誰にとっての最小なのか。
人か。
構造か。
それとも――機能か。
背後で、足音が止まった。
「悩んでいる顔だな」
神谷だった。
今日は、警備も同行していない。
「当然だ」
「君が拒否した判断は、間違いじゃない」
即座にそう言われて、少しだけ戸惑った。
「だが」
神谷は続ける。
「次も、同じ状況が来る。
しかも、規模は大きくなる」
分かっている。
街が、徐々に“準備段階”に入っている。
「全面起動を完全に止め続けるのは、現実的じゃない」
「……だから、俺に慣れろって?」
神谷は、首を振った。
「違う。
**判断基準を、共有しろ**」
その言葉が、胸に残った。
「街は、機能として最適解を選ぶ。
君は、人間としての最適解を持っている」
「両立しない」
「だから、噛み合わせる」
簡単に言う。
「街が見ていないものを、君が見る。
君が見落とす全体を、街が補う」
それは、協力というより、分業に近い。
「……失敗したら?」
俺が聞くと、神谷は一拍置いた。
「失敗は、必ず起きる」
隠さない。
「だから、記録する。
次に生かす」
街と同じ発想だ。
最適化。更新。反復。
俺は、息を吐いた。
「人間を、アルゴリズムみたいに扱うな」
「扱っているのは、現実だ」
神谷は、淡々としている。
「君がいなければ、
もっと多くが壊れる」
否定できない。
足元から、弱い振動。
街は、静かだ。
だが、確実に次を見ている。
俺は、目を閉じた。
完璧な判断はない。
正解もない。
それでも。
「……分かった」
そう言うしかなかった。
「条件がある」
神谷は、黙って聞く。
「俺が拒否した理由は、必ず現場で説明させろ」
神谷の眉が、わずかに動いた。
「数字じゃなく、人の言葉でだ」
数秒の沈黙。
「了承する」
即答だった。
その瞬間、胸の奥が、少しだけ軽くなる。
足元から、微かな振動。
承認でも、祝福でもない。
ただ、更新。
俺は、空を見上げた。
選択の重さは、減らない。
だが――
**一人で背負う必要は、なくなった。**
次に街が動くとき、
俺は、目を逸らさない。
それだけは、決めていた。
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