第22話 資源としての価値
再開発本部の会議室は、無駄に静かだった。
防音壁。遮光ガラス。通信遮断。
ここでは、街の音は一切届かない。
神谷は、壁面に投影された断面図を見つめていた。
都市の地下構造。再開発予定区域の、さらに下。
「……動き始めている」
誰に言うでもなく、そう呟く。
数値は揃っている。
異常はない。
それでも、“挙動”だけが説明できない。
「偶然ではないな」
背後で、別の男が答えた。
再開発会社の人間ではない。官の匂いがする。
「三回目です。
同一地点、同一人物の周辺で、臨界寸前の事象が収束している」
神谷は、視線を投影から外した。
「彼は?」
「生活圏は、ほぼ固定。
就業履歴は停止。
移動範囲も狭い」
淡々とした報告。
人の話をしているとは思えない。
「……街に縛られている」
神谷が言うと、男は小さく頷いた。
「街ではありません。
機構です」
言い直しが入る。
「都市下層に存在する、旧世代の自律防衛構造。
兵器と呼ぶには未完成。
インフラと呼ぶには、意思が強すぎる」
神谷は、短く息を吐いた。
「それが、彼を媒介にして動いている?」
「正確には逆です」
男は、別の映像を出した。
生体データ。心拍。脳波。代謝。
「彼の状態変化に合わせて、都市側が調整を行っている。
人間を“操縦者”として使っているわけではない」
数秒の沈黙。
「……部品か」
神谷の声は低かった。
「**接続端末**です」
言葉が、冷たい。
「切り離せば?」
神谷は、即答を期待しなかった。
「街が不安定化します。
最悪、全面的な暴走。
都市機能の破壊。人的被害、算出不能」
「つまり」
神谷は、画面に映る一点を見つめる。
「彼は、必要だ」
「現時点では」
男は、そう付け加えた。
「代替手段が見つかるまでは」
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一方、その頃。
主人公は、団地の屋上にいた。
風が強い。
街の音が、少し遠い。
ここに来ると、反応が薄くなる。
意図的に選んだ場所だ。
フェンス越しに、再開発区域が見える。
整えられた光。均一な配置。
そして、その下に眠るもの。
――見られている。
それは、街じゃない。
人の視線だ。
遠くで、黒い車が止まった。
誰かが降りる気配はない。
ただ、そこにいる。
監視。
もう、隠す気もないらしい。
胸の奥が、静かに冷えた。
「……なるほど」
理解してしまった。
街に残る理由は、もう俺の中にない。
俺が残されているだけだ。
そしてそれは――
**価値があるから**。
足元から、弱い振動。
同意でも、否定でもない。
ただの反応。
俺は、フェンスに手を置いた。
「なあ」
返事はないと分かっている。
「……俺が壊れたら、どうする」
数秒。
どくん。
振動が、一度だけ返ってきた。
それで十分だった。
街は、答えない。
でも、人間の方は、答えを出さなきゃいけない。
俺は、フェンスから手を離し、背を向けた。
――次に動くのは、
俺の番だ。




