第14話 残る理由を、奪われる
朝になっても、連絡は来なかった。
目覚ましが鳴る前に目は覚めていた。
身体は重いが、動けないほどじゃない。昨日までと同じだ。少なくとも、表面上は。
作業着に袖を通し、スマホを机の上に置く。
画面は暗いまま。
普段なら、この時間には現場集合の連絡が入る。
短いメッセージひとつ。それだけで一日が始まっていた。
今日は、それがない。
嫌な予感は、最初からあった。
昨日の現場。神谷の視線。あの言葉。
――次は、偶然で済まないかもしれない。
スマホを裏返し、窓の外を見る。
街は静かだった。朝の空気の中で、団地も商店街も、何事もなかったみたいにそこにある。
それが、少しだけ救いだった。
しばらくして、ようやく通知が鳴る。
期待していた現場連絡じゃない。
《今日は現場に出なくていい。事務所に来てほしい》
短い文面。
理由は書かれていない。
俺は、深く息を吐いた。
来たな、と思った。
覚悟していなかったわけじゃない。それでも、胸の奥が静かに沈む。
作業着の上から、上着を羽織る。
ヘルメットを手に取って、少し迷い、棚に戻した。
今日は、使わない。
玄関を出る前、もう一度だけ、部屋を見回した。
特別なものは何もない。いつも通りの景色だ。
それでも、この朝が、
これまでと同じじゃないことだけは、はっきり分かっていた。
外に出ると、足元の感触が、いつもより確かだった。
舗装の硬さ。地面の冷たさ。
街は、何も言わない。
ただ、そこにある。
俺は、事務所へ向かって歩き出した。
理由を聞かされる準備だけを、胸の奥で整えながら。




