第13話 離れられない場所
部屋に戻ると、灯りを点ける気になれなかった。
カーテン越しに差し込む街灯の光だけで、十分だった。
それ以上の明るさは、今はいらない。
床に腰を下ろし、背中を壁に預ける。
一日の疲れが、ようやく形になって押し寄せてきた。
身体は重い。
けれど、眠れそうになかった。
耳を澄ます。
どくん、という音は聞こえない。
それでも、完全な静寂でもない。
街は、そこにある。
それだけが、はっきり分かる。
今日、守れたものは小さい。
看板ひとつ、配管ひとつ、商店街の一角。
その代わりに、失ったものは、数え方すら分からない。
力。
余裕。
たぶん、これからの選択肢。
逃げようと思えば、まだ逃げられる。
街の外に出ること自体は、できる。
でも。
ここを離れた瞬間、
この街は、また「いらない場所」に戻る。
俺は、目を閉じた。
選ばれたわけじゃない。
使命を与えられたわけでもない。
ただ、ここに残った。
それだけだ。
――それでも。
この街が、確かに生きていると知ってしまった以上、
知らなかった頃には、もう戻れない。
窓の外で、遠くの信号が切り替わる。
誰もいない交差点に、青が灯った。
意味はない。
偶然だ。
それでも、胸の奥が、少しだけ熱を持つ。
俺は、静かに息を吐いた。
「……離れない」
宣言でも、誓いでもない。
ただの事実だ。
街は、答えない。
けれど、その沈黙が、
拒絶ではないことだけは、分かった。
――俺はもう、この街から離れられない。
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