第12話 「選ばれた」のではなく「縛られた」
応急対応班に引き渡され、簡単な確認を受けたあと、俺は解放された。
大事にはしない。
そういう判断だ。
理由は分かっている。
説明できないからだ。
再開発側としても、「原因不明の異常」が増えるのは避けたい。事故は処理できるが、不可解な現象は管理できない。
現場を離れようとしたところで、声をかけられた。
「無理はするな」
神谷だった。
いつの間にか、すぐ後ろに立っている。
「立ちくらみ、だろう。今日は帰った方がいい」
「……はい」
表向きは、気遣いの言葉だ。
だが、彼の視線は、俺じゃなく、足元を見ていた。
地面。
何も起きていないはずの、舗装の継ぎ目。
「君は、昨日も今日も――“中心”にいる」
独り言みたいに、神谷は言った。
「偶然にしては、出来すぎだ」
胸が、わずかに締めつけられる。
「安心しろ。今は、問い詰めない」
神谷は、ゆっくりと視線を上げた。
「だが、覚えておいてくれ。
街は、何も言わない代わりに、痕跡を残す」
それだけ言うと、彼は去っていった。
俺は、その場に立ち尽くす。
選ばれた、なんて言葉は、どこにも当てはまらない。
誇れるものでも、祝福でもない。
ただ――離れられなくなった。
そんな感覚だけが、はっきりと残っていた。
---街の意思
夜。
街灯の少ない通りを、一人で歩く。
昼間の喧騒が嘘みたいに、静かだった。
足元は、相変わらず安定している。
だが、昼に感じていた反応は、戻ってこない。
試すように、立ち止まる。
何も起きない。
「……だよな」
自嘲気味に息を吐く。
都合よく反応するほど、優しいものじゃない。
それでも、帰ろうとして、また足が止まった。
胸の奥が、じんわりと熱を持つ。
昼間、何かを失ったはずなのに。
俺は、何も言わず、その場に立ち続けた。
逃げない。
触れない。
求めもしない。
ただ、そこにいる。
しばらくして――
どくん。
微かで、弱い振動。
昨日のような力はない。
さっきの危機を止めた時ほどの圧もない。
それでも、確かに。
俺は、ゆっくりと息を吸った。
拒まれていない。
そう思った。
街は、俺を守らない。
代わりに、何も約束しない。
ただ、離すつもりもない。
それで、十分だった。
見上げると、古い街灯が一つ、灯りを強めていた。
まるで、
「そこにいろ」と言うみたいに。
俺は、視線を戻し、静かに呟いた。
「……分かった」
誰に向けた言葉でもない。
でも、足元の街は、確かに、沈黙を保ったまま、そこにあった。




