第9話
昨夜見た絵が、何度も浮かぶ。
王城では仕事場以外の場所には行き来に制限があるのだという。
リヒトの「事情」。
昨日の絵には、鎖、杭、止められている手。
(状況、悪くなってない?)
真琴はカップスープを飲みながら、ノートを開いた。
箇条書きにして思考と感情を整理しよう。
・飴がないと、文字は読めない
・飴には制限がある
・リヒトには行動の自由がなさそう
・誰かに監視されているらしい
(……私、一体、何してるんだろ)
相手はおそらく異世界の貴族。
一方こちらは、在宅勤務の庶民OL。
(なんなんだろうこの感情)
◇
夜。
真琴は、少し緊張しながら押入れを開けた。
箱の中には――
紙が一枚と、小さな包み。
(飴がある!)
包みはねじりが甘く、紙の端が破れている。
(急いで用意した?)
嫌な予感がよぎる。
真琴は飴を口に入れ、すぐに紙を開いた。
『今日は、あまり時間がない。
飴について、説明しておくべきだと思った』
真琴は、椅子に腰を下ろした。
『これは、本来、外交の場で使われる魔術具だ』
心臓が、どく、と鳴る。
『個人的な使用は、原則許されていない』
(やっぱり……)
『学生時代の伝手を頼り、
廃棄予定のものを少量だけ融通してもらっている状態だ』
“伝手”。
誰かが、協力している。
『だが、その伝手にも、疑いの目が向き始めた。
最近、私の行動や持ち物が、明らかに細かく確認されている』
(……完全に、監視)
『外部との接触が疑われれば、この飴は、真っ先に没収されるだろう』
真琴の指が、紙を強く握る。
『そうなれば私には君の言葉は、二度と読めなくなる』
その一文が、夜ふけに重く沈んだ。
◇
真琴は、急いで次の行を追う。
『惜しいが、これが最後になる可能性もある。
それでも君に何も言わずに終わるのは、嫌だった』
最後の一行は。
『また、紙の上で』
◇
真琴は、深く息を吐いた。
ただ癒されていただけの時間が、
いつの間にか、失うのが怖いものになっていた。
(……それって)
◇
真琴は、すぐに新しい紙を取り出した。
(落ち着け、できることを考えよう)
感情だけで動いても、意味がない。
真琴は、ゆっくりと絵を描き始めた。
まず、飴。その横に、箱と紙。
(箱は隠しているの?)
次に、部屋の絵。
棚。本。引き出し。
(調べられても、見つかりにくい場所はあるの?)
現代の感覚が、自然と働く。
最後に、棒人間を二人。
一人は、囲いの中。もう一人は外に。
その二人の間に、細い線。
(この繋がりを切らないで)
そう願いながら
真琴は紙を箱に戻し、そっと襖を閉めた。
◇
真琴は、布団に入って天井を見つめる。
返事が来るかどうかは、分からない。
それでも。
この関係を、簡単に手放すつもりはなかった。
リヒト周辺がきな臭くなってまいりました・・・!
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