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押入れで物々交換していたら、異世界につながっていました!?  作者: あけはる


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第8話

 翌朝。

 真琴は、目覚ましより少し早く目が覚めた。

 天井の木目を眺めながら、しばらく動かない。


(静かだな)


 譲り受けた祖母の家は、音が少ない。

 都心の賃貸アパートにいた頃は、車の音や人の気配が否応なく入り込んできていた。


 でもここでは鳥や風の音。


(この家に来て、もう結構経つ)


 半年前、在宅勤務が本格的に認められたのをきっかけに、思い切って引っ越した。

 祖母が遺したこの別荘は、静かで、広くて、少しだけ寂しい。



 朝食を済ませ、ノートパソコンを開く。

 オンライン会議、チャット、資料作成、進捗確認。


 人と話しているはずなのに、

 誰とも顔を合わせていない感覚が日に日に強くなっていく。


(そういえば……)


 ふと、スマートフォンを見る。


 最後に友人とメッセージをやり取りしたのは、いつだったか。

 忙しさを理由に、会う約束を先延ばしにしているうちに、連絡そのものが減っていた。


(まあ、仕方ないよね)


 自分に言い聞かせるように、画面を伏せる。

 寂しい、とは思わないようにしていた。

 余計に、気持ちが揺れる。



 昼休み。

 簡単な食事をとりながら、無意識に押入れの方を見ている自分に気づく。


(……あ)


 苦笑する。


 以前なら気にも留めなかった場所だ。

 今ではしっかり「確かめたい場所」になっている。


(まあ普通に考えて、変だよね)


 顔も知らないし声も聞いたことがない。

 そもそも起きていること自体が超常現象。

 それなのに。

 あの押入れの向こうからの返事を待ち望んでしまう。



 夜。

 自然な流れで押入れの前に座る。


(……今日も来てたらいいな)


 襖を開ける。

 箱の中には、紙が一枚だけ。


(……あれ?)


 飴がない。


 紙を手に取る。


 読めない。当然だ。

 描かれた絵には


 棒人間と口元の飴の絵。そして、×。


(飴はない、ってことね)


 棚。本の山。棒人間。これは仕事場、かな。


 その足元に、鎖のような線。

 杭に繋がれている。


(…なにこれ?)


 飴の丸、それに伸びる手を

 もう一つの手が止めている。


 止める側の棒人間には、小さな冠のような印。


(……止められた、ってこと?)


 喉が、ひくりと鳴った。


 昨日までなら、「少し不便そうだな」で済んだかもしれない。


 リヒトの”事情”を聞かされた今となっては

 “不自由な生活”が、頭に浮かぶ。


 誰にも話せないことを、

 この押入れに向かって書いているのかもしれない。

 

 そして。

(私も、似たようなものか)


 この家で一人、仕事をして、

 夜になると静かに一日を終える。


 誰かに聞いてほしいわけじゃない。

 でも、誰かが“いる”と感じられるだけで、救われる夜があることを知った。



 真琴は、そっと紙を置いた。


(……大丈夫、なのかな)


 外出場所にも制限がついていると言っていた。

 不自由そうな生活に心配が募った。


 今日は文字じゃなく絵で返事をかいた。


 棒人間。

 その横に、もう一人。


(ここに、私かいるよと)


 次に、自分の家の絵。湯気の立つカップ。柔らかい布団。


(私は、ここにいる)


 最後に、ゆっくりとした線で、夜空と月。

 紙を箱に戻し、襖を閉めた。



 布団に入っても、すぐには眠れなかった。


(癒されてたんだ、私)

 一日の終わりに、

 「今日も誰かと繋がっていた」と思える時間。

 それが、思っていた以上に、大切になっていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

もしよろしければご評価やブクマなど応援いただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします!

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