第5話
ちょっとゆっくり進みます。
翌朝。
真琴は、ほとんど反射で押入れを開けていた。
――何も変わっていない。
(そりゃそうか)
昨日、紙を入れたのは夜だ。
返事が来るとしたらまた夜の可能性が高い。
(分かっているのに、確認しちゃうな)
◇
仕事の資料を作りながら、頭の端に残るのは、
○と×、棒人間、三日月。
(月は夜ってことでいいよね)
昨日の絵を思い返す。
「食べた」の横に、月。
(夜に食べた、ってこと?)
昼ではなく、夜。
繰り返し強調されている気がした。
◇
夜。
真琴は少し早めに風呂を済ませ、
部屋着のまま押入れの前に座った。
襖を開ける。
胸が跳ねる。
紙は二枚おかれていた。
上の一枚を、そっと取り出すと
描かれていたのは、また絵だった。
棒人間と建物。
その周りに、ぐるりと線。
(囲い……?)
棒人間は、その中にいる。
横に、三日月。その下に、○が書かれている。
2つ目の髪には
同じ棒人間と太陽らしき絵。
その下に、×。
(昼は×。夜は○)
つまり。
(夜だけ、返せる?)
2つ目の絵の隅には。
棒人間の頭のあたりに、細い線が何本も描き足されていた。
(ふふ……髪が足されてる)
しかも、薄い。
(ちょっと灰色、っぽいかな?)
(きっと自分の姿を、描いたんだ)
◇
真琴は、新しい紙を取った。
(どう返そう)
相手は、夜に返事を書いているらしい。
(だったら)
描く。
自分の家と中にいる棒人間。
太陽の下に、○。
三日月の下にも、○。
(私は、いつでも大丈夫っと)
真琴はそっと紙を箱に戻した。
◇
襖を閉めてから、真琴は少しだけ想像する
(夜しか、自由じゃないとしたら)
理由は分からない。顔も立場も、場所も何も知らない。
でも。
押入れの向こうにいる“誰か”が、
思っていたより、窮屈な状況にいるのだとしたら。
(……大丈夫かな)
心配が先に出たことに、自分で驚く。
ただの不可思議な現象だったはずなのに。
今はもう、「誰か」に親近感すら覚えて始めている。
真琴は、そっと息を吐いた。
次の夜も、きっと押入れを開けるだろう。
ちょっと楽しみだ。
次話は急展開予定です。
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