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押入れで物々交換していたら、異世界につながっていました!?  作者: あけはる


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13/13

2-3

 石床を蹴る音が、やけに大きく響く。

 古い書架の間を縫うように、リヒトが迷いなく進んでいく。


 道を覚えているというより、

 避けるべき場所を知っているような動きだった。


 背後で金属が擦れる音が複数している。


「……止まらずに行く」


 低く短い声。

 振り返らなくても、緊張が伝わってくる。


 階段を下り、さらに細い通路へ。

 天井が低くなり、石壁が湿り気を帯びていく。


(地下……?)


 真琴がそう思った瞬間、

 リヒトが急に足を止めた。


「ここだ」


 壁に埋め込まれた古い扉。装飾も紋章もない。


 リヒトは迷いなく、腰の鍵束から一本を選び出した。


(鍵、持ってるんだ……)


 音を立てないよう慎重に差し込んで、回す。


 扉は、古ぼけた金属の音とともに開いた。



 部屋のなかは狭かった。

 灯りはなく、奥に古い机と椅子が一つあるだけ。


 ひんやりしている。


 リヒトは真琴を中へ押し込み、自分もすぐに入る。


 ――――次の瞬間

 扉が閉まる音と同時に、バタバタと足音が大きくなった。


 扉のすぐ外で、靴音が止まる。

 

(見つかる・・・!)


「……問題ない」


 囁くような声。


 リヒトは、机の裏に手を伸ばしている。

 ごく小さな溝。


 リヒトの長い指が滑る―――

 空気が、歪んだ。


(……え?)


 何も見えない。

 けれど、確かに“何か”がそこにある。


 足音が、遠ざかっていく。

 しばらくして。


 完全に、静かになった。



 リヒトは、ようやく肩の力を抜いた。


「……もう大丈夫だ」


 その一言で、

 真琴の足から力が抜けた。


「こ、ここは、どこなの?」


 掠れた声。


 リヒトは、少し困ったように視線を逸らす。


「正式な記録にはない場所だ」


(え、なにそれ怖い)


「文書庫の付属室、という扱いだが……

 実際は、**“使われなくなった部屋の名残”**だな」


 分かるようで、分からない。


 けれど。


(つまり、

 堂々と使えない場所ってこと?)


 リヒトは、椅子に腰を下ろした。


 その動作一つで、

 疲労が限界に近いことが分かる。


「……すまない」


「え?」


「本来、君を連れて来るべき場所じゃなかった」


 薄紫の瞳が、真琴をまっすぐ見る。


「だが、あのまま文書庫にいれば、君は確実に捕捉されていただろう」


(捕捉…!)


 その言葉が、重く落ちた。


「君はこの世界では未登録の存在だ。

 “異変”として扱われる」


(未登録、ね)


「戸籍登録していない存在は本来あってはならない。

 だから見つかった場合。事情聴取、拘束――」


 そこで言葉を切る。


「……保護、という名の隔離が待っているだろう」


 真琴は、背筋がぞくりとした。


(帰れなくなる、ってこと……?)


 リヒトは、拳を軽く握る。


「ここで一度、状況を整理する必要があるな」


 彼は、真琴の手を見た。


 ――黄金色の指輪。


「その指輪が、君を“呼ばれた存在”にした」


 薄紫の視線が交わる。


「そして同時に、今の君を、

 最も危険な存在にもしている」


 真琴は、急に冷たく感じた人差し指をまげて、

 変わらず輝く指輪を見つめた。



 リヒトは、ゆっくりと息を吐く。


「時間があまりないんだ」


 この世界で生きてきた者の重さがあった。


「私は選ばなければならない」


「……なにを?」


 真琴の問いに、リヒトは一瞬だけ目を伏せる。


「君を、ここに留めるか」


 それとも。


「――表に出すか」


 どちらを選んでも、代償があるという。

 真琴は、息をのんだ。


 これは、リヒトの選択なのだ。


 リヒトは、再び真琴を見た。

 静かな声。


「君は、ここに留まる覚悟があるか?」


 真琴の喉が鳴る。


 答えを口にする前に、

 足音が再び、聞こえた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

もしよろしければご評価やブクマなど応援いただけますと嬉しいです。

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