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視界が、白く弾ける。
音が消え、上下も、前後も、分からない。
体が引き延ばされるような感覚と、
強く縮むような感覚が、同時に来た。
(……落ちてる?)
いや、通っている。
何かの「間」を。
祖母の声が、
ふと、脳裏をよぎった。
『扉はね、開くものじゃないの』
この先で何かが、確かに待っている。
『呼ばれるの』
◇
――どん。
鈍い衝撃。
空気が、肺に一気に流れ込む。
「……っ!」
げほげほと咳き込みながら、真琴は床に手をついた。
冷たい石の感触。土と、古い木と、紙の匂い。
顔を上げる。
そこは、見知らぬ部屋だった。
(うわあ)
高い天井。石造りの壁。
壁一面に並ぶ、古い書架。
(……図書館?)
灯りは、淡いオレンジだ。
窓はなく、外の気配は分からない。
真琴は、息を整えながら立ち上がった。
「真琴、なのか・・・!」
名前を呼ばれた。
◇
想像よりもずっとずっと、美しい青年が立っていた。
銀色の髪はキラキラと輝き、肩にかかっている。
薄紫の切れ長の瞳にツンとした鼻、薄い唇は桃色。
目を見張るような整った顔立ち。
どこか疲れた影を帯びた表情に
はっきりと分かる――安堵を浮かべている。
「……本当に、来た」
呆然とした声。
(リヒトさん、なの?)
上手く声が出ない。
言葉より先に、胸がいっぱいになる。
「……無事、か」
真琴は、何度も瞬きをしてから、
やっと頷いた。
「……うん」
それで十分だった。
◇
リヒトは、深く息を吐いた。
「間に合った……」
そう呟いて、疲れたような表情に初めて、
苦笑に近い笑みを浮かべる。
「正直に言うと、半分賭けだった」
(賭け?)
問い返そうとした瞬間。
遠くで、金属の音が響いた。
――足音。
複数。
リヒトの表情が、一変する。
「・・・まずい」
彼は素早く近づいて来ると、真琴の手首を掴んだ。
迷いのない力。
「いきなりですまないが、移動する。
ここは長くいられる場所じゃないんだ」
「え、ちょ、ちょっと!」
慌てる真琴に一瞬だけ、鋭い薄紫の瞳を向ける。
「説明は後だ」
不思議と恐怖はなかった。
ここまで来て、ためらう理由なんてもうなかった。
扉のない書庫の奥へ、
二人は駆け出す。
追いかけてくる気配を背に感じながら。
◇
その夜。
ヴァルグレン公爵家の文書庫で、
一つの“異変”が記録された。
――未登録存在の侵入の疑い、あり。
やっとご対面です!長かった・・・!
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