2-1
朝。
真琴は、違和感で目を覚ました。
(……寒い?)
今は冬、古い家のため断熱が弱いのか
暖房をかけていてもひんやりと室内が寒いときはあるが、
今日は隣の部屋からじんわりと冷えた空気が流れてきている気がした。
布団から出て、廊下に出る。
原因はすぐに分かった。
――押入れの襖が少し開いている。
(昨日きっちり閉めなかったっけ?)
昨夜、確かに閉めた。
手応えも覚えている。
なのに今は、指一本分ほど、隙間が空いていた。
ゆっくり近づき、襖に手を伸ばす。
――冷たい。
(気のせい、じゃないよね)
この押入れに関しては、
「気のせい」で済ませてはいけないことをもう知っている。
◇
いつもどおり置かれた木箱。
真琴は、喉が鳴るのを感じながら、箱の蓋を開けた。
中には、紙が一枚。
そして。
見覚えのない、細い金属の輪。
指輪のような
黄金色に輝く直径2㎝程の輪っか。
内側に小さな刻印を見つけた。
(なんだろう?)
文字らしきものが書かれているがもちろん読めない。
だが、これまで見てきたリヒトの文字とよく似ているように感じた。
彼が、ここに置いたのか。
(どういう意図で?)
昨夜の手紙を思い出す。
――この繋がりは、近いうちに断たれるかもしれない。
何かを託した?
それとも?
◇
夕方。
仕事を終えた真琴の足は
無意識のうちに、祖母の部屋へ向かっていた。
普段は、あまり入らない。
祖母が亡くなってから、なんとなく、
そのまま残してある部屋だ。
箪笥に古い机。年季の入った引き出しの取っ手。
一つ一つ開けていくと、一番下の引き出しに小さな封筒があった。
真琴へ―――
その宛名には震える字でこう書かれていた。
(おばあちゃん、なんで?)
『真琴、あの押入れはね
選ばれた人にだけ、応えるの』
真琴は、息を止めた。
(おばあちゃん、あの木箱のことを知ってたの?)
ページをめくる手が震える。
『扉は開くのではなく、呼ばれるのよ』
意味は上手く理解できない。
ただ偶然とは思えなかった。
(この家は……)
ただの別荘じゃない。
祖母は、何かを知っていたのだ。
知っていて、あえて真琴に託したのだ。
◇
真琴は、覚悟を決めて押入れの前に座った。
(……来るなら、来て)
襖を開ける。
木箱には、紙が入れられていた。
そこに書かれていたのは――
読める文字。
今日は翻訳の飴は、口にしていない。
それなのに。
『真琴、時間があまりない』
次の行を読んだ瞬間、
心臓が跳ね上がる。
『この繋がりは、この木箱だけでは保てなくなっているようだ』
真琴は、黄金に光る指輪を見る。
(……これか)
『選択が必要だ』
文字が、揺らぎ始める。
『この押入れは――』
そこで文字が途切れた。
紙がふつふつと文字を消し、白紙に戻っていく。
押入れの奥から、風が吹いてくる。
冷たく、そしてどこか懐かしい匂いを伴った風。
真琴は、ゆっくりと立ち上がった。
不思議と心は落ち着いていた。
まるで初めからそう決まっていたかのように。
祖母の言葉も、金色の指輪も必然。
そして向こうで生きている、リヒトという人。
真琴は、一歩、押入れに近づく。
――もう、いかなきゃ。
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