第10話
夜。
真琴は深く息を整えてから襖を開けた。
箱の中には、紙が一枚と、
小さな包みが置かれている。
(飴、ある!)
真琴は飴を口に入れ、すぐに紙を開いた。
『昨夜、私の部屋と文書庫の私物検分が行われた』
胸が、ひくりと鳴る。
『すべて、調べられた』
真琴は、指先に力を込めた。
『だが、彼らは何も見つけられなかった』
(……よかった)
全身の力が抜ける。
『理由を、君に伝えておきたい』
『私は、何も隠さなかった』
『いや、正確には――
余計なことを、しなかったといったところか』
その言い回しに、リヒトの性格が滲む。
『疑われていると知ったとき、
人は往々にして、何かを動かし、誤る』
確かにそうだ。
『だが私はそれをしなかった』
『君が、いたからだ』
真琴の心臓が、大きく脈打つ。
『君が“ここにいる”と知っていたから』
真琴は、思わず紙を握りしめた。
『一人だったら、私は焦って失敗しただろう』
『君の絵を思い出した』
あの夜、真琴が描いた棒人間。
囲いの中の彼と外にいる自分。
それをつないだ細い線。
『一人じゃない、そういう意味だったのだろう?』
『落ち着くことができた、感謝する』
◇
『だが、この状況が終わったわけではない』
『監視は残っている』
『それでも、今夜、こうして書けているのは
私にとってとても大切なことだ』
『ありがとう、真琴』
(あ、名前・・・)
文字が消えた後もしばらく動けなかった。
(……そんな)
ただ、「ここにいる」と伝えただけだ。
(それが、力になることもあるんだ)
胸の奥が、静かに熱くなった。
◇
我が家となった祖母の家を見回した。
静かな廊下。古い木の匂い。鳥や風の声。
(この場所で私は一人)
でも、ちゃんと繋がっている。
(……私も、救われてたって伝えなきゃね)
リヒトだけじゃない。
このやり取りは互いを支える時間になっている。
その共通認識が嬉しかった。
第一章はここで終わりです。次話から第2章に入ります。
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