第1話
短い連載になる予定です。
古い押入れを開けた瞬間、真琴は手を止めた。
(……こんなもの、あったっけ?)
半年前に祖母がなくなり、この古い別荘は真琴のものになった。
昔祖父母が避暑用に購入したらしい一軒家だが、最近は年数回の掃除を業者に頼んでいたぐらいで
ほぼほぼ放置となっていた。
もらい受けてからここ数か月、週末や仕事終わりにこの家に来ては
真琴はこの家の整理に明け暮れていた。
都心は家賃も生活費も高い。
幸い、真琴の仕事は在宅ワーク可能であった。
一念発起、真琴は、この家に移住することに決めた。
そして先日、満を持して、この家に引っ越してきたのである。
1階寝室の奥、昭和感あふれる2段にわかれた木の押入れ。
中身を片付け整理をし、この押入れは空っぽにしたはずなのだが・・・
―――上の段の中央、小さな木箱が、置かれている。
引っ越しの前日、確かに押入れは確認した。
少なくとも、こんな箱はなかったはずだ。
よく見るとこの木箱、古そうだ。
だが、奇妙なことに埃をかぶっていない。
長年放置されているというより、最近、誰かが置いたように見える。
胸の奥が、わずかにざわついた。
(……これって、不法侵入?)
この別荘は、今は真琴ひとりのものだ。
引っ越し業者が無断で物を置くわけはないし、知人が合鍵を持っているとも思えなかった。
恐る恐る、木箱を取り出して蓋を開けてみる。
中に入っていたのは、布に包まれた硬貨と、一枚の紙。
硬貨は銀色で、ずしりと重い。見覚えのない模様が刻まれている。
紙には文字が書かれていたが、日本語ではなかった。
英語でも、他のヨーロッパ系の言語でもなさそうだ。
文字の並びは整っているのに、まったく読めない。
(……なに、これ)
やはり不法侵入なのだろうか。
(こういう時って、警察に連絡したほうがいいのかな・・・
でも、紙と硬貨だけって、わざわざ侵入して置くような代物?不自然すぎない?)
ただ、不思議と恐怖は感じなかった。
(まあ、いっか・・・)
結局、その日は木箱をいったん押入れに戻しておいた。
不法侵入の可能性も考え、玄関と窓の鍵を確認し、念のためチェーンもかけた。
(もう夜遅いし、明日考えよ・・・)
◇
翌朝。
押入れの前、真琴は何度も深呼吸をした。
(せーのっ・・・!)
――何も変わっていなかった。
機能と同じく木箱が鎮座している。
中身を確認すると銀貨も、紙も、昨夜のままだ。
チェーンは外れた形跡がないし、何より誰かが侵入した形跡がまったくない。
(中身はコレだけだし、警察に言うほどでもない……よね)
侵入者がいたとして、何も盗られていないし、荒らされてもいない。
説明のつかない物はあるが、ただそれだけだ。
真琴はしばらく考え込み、やがて、一つの結論に至った。
(……反応を見るしかないか)
もし、人間の仕業なら。
無いと思うが、誰かがこの家に出入りしているなら。
こちらの行動に、何かしらの反応が返ってくるはずだ。
真琴はテーブルにあったメモ用紙を手に取り、
ためらいながら、短い一文を書いた。
『この箱を置いたのは、誰ですか』
問いかけというより、確認。
返事を期待するというより、ある意味、罠に近い。
紙を元に戻した。
(こっちも、突拍子のないものを置いてみるか)
なぜかまるでミステリーのなかにような感覚が芽生えてきた真琴は
昨日スーパーで買った個包装のクッキーを一個、メモのとなりに置いてみた。
(さあ、さぐりあいよ!)
すっかり気分は探偵である。
◇
その夜。
(1日たっていないけど、あけてみるか)
押入れを開ける。
――――クッキーが、ない。
代わりに、箱の中に見知らぬ草の束が入っている。
乾燥し丁寧に整えられ、紐で括られていた。
置いたメモも、変わっていた。
自分の書いた文字の下に、見知らぬ文字が増えている。
(え……?)
誰か入った?いや、ありえない。
玄関も、窓も、確かめるが人が通った形跡はないし何より、
今日は真琴が一日中家にいたのだ。人が入ったなんてありえない。
草を手に取ってみる。
薬草のような少し苦い香り。
悪ふざけにしては、あまりにも手が込みすぎている。
そして、説明もつかない。
スマートフォンで翻訳アプリを試すが、文字は認識されなかった。
(何が書いてあるんだろう)
もう一度紙をよく見てみる。
一箇所だけ、繰り返し出てくる文字列があった。
(……名前、とか?うーん、全然わからん!)
真琴は、箱の中を見つめた。
この箱が何なのか、何が起こっているのか、正直見当がつかない。
だが――少なくとも、これは偶然ではない。
自分の行動に、「何か」が応じた。
それだけは、否定できなかった。
真琴は、紙を手に取り、次に何を書くべきか、しばらく考え込んだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
楽しんでいただけましたら幸いです。
良ければご評価やブクマ等応援していただけましたら嬉しいです。
よろしくお願いします!




