鏡
それは先々代の家主が住んでいた頃から有るらしい。
不可解な死に方をした家主たちの時代から。
不可解と言うのはおかしい死に方をした時代から。
この事は後から知った。
我が家には鏡が有る。
築百年の我が家に鏡がある。
昔はどうか知らない。
だが今の時代は、どこの家庭でも鏡は有る。
だが玄関に有る大きな鏡は我が家だけだろう。
玄関だけでは無く無数の鏡が僕の家に有る。
しかもアンティーク鏡だ。
アンティークやアンティークミラーは、空間に奥行きと広がりをもたらすインテリアアイテムだ。
特に壁掛けタイプや全身鏡アンティークは、限られたスペースでも視覚的な拡張効果を発揮する。
部屋をより開放的に見せる事が出来る。
この効果は、鏡が光を反射し、部屋全体を明るくするための物だ。
窓の向かい側や部屋の奥にアンティークミラーを設置すると、自然光や照明が反射して空間が一段と広がって見える。
狭いリビングや玄関でも、鏡アンティークを取り入れることで効果が分かる。
そのアンティークの鏡が我が家に有った。
玄関に。
その鏡の美しさは工芸品に疎い僕でも分った。
所で最近有る悩みが僕たち家族を苛んでいた。
最近の事だが原因不明の体調不良に悩まされていた。
家族全員だ。
そうなるはずがないのに。
何故か。
冷や汗にも似たゾクゾクとした感覚。
まるで風邪を引いたときの悪寒に似た感覚を感じていた
その他の症状として有る時期から片頭痛に悩まされていた。
有る時期とは今住んでいる中古の我が家を買ってからの事だ。
大きく立派な中古の家。
今の我が家を買ってから此の症状は始まった。
元々買う気が無かった我が家。
だが玄関に有る鏡を見て両親の意志は変わった。
僕の記憶に有る両親の会話は今思うと可笑しな感じだったと思う。
その会話を思い出す。
居間にある鏡から僕が聞いていた会話を。
玄関の鏡を見た両親の会話を。
「何て立派な鏡なんでしょう」
「年代物のアンティークみたいだね」
「いつの物かしら?」
「不動産の話ではルネサンス王朝時代の物らしい」
父の言葉に溜息を付いた。
じいい~~と見つめる母。
その視線には熱を感じさせる何かが有った。
「そんなアンティークを、なぜ日本家屋の玄関に?」
「持ち主が、この鏡をどうしても使いたくて其れに合う日本家屋を建てたらしい」
「へえ~~」
ふうんと笑う母。
その視線は鏡から離れない。
「まあ~~確かに合ってるけど玄関ねえ?」
「確かにな」
「鏡の持ち主の仕事は何だったの?」
「アンティークの店長だったらしいぞ」
「へえ~~」
「色んな国のアンティークを扱ってたらしい」
「日本のも?」
「日本の民芸品とかも扱ってたらしいぞ」
「どんなのを扱ってたの?」
「寄せ木細工や漆器とか日本人形とか」
母の視線が父に向けられる。
グルリと。
「元の持ち主が外国人だったんじゃない?」
「ああ、不動産はそう言ってたな」
「やっぱり」
母の視線が鏡に向く。
「合わないわな」
「それで此の家の購入するとしたら幾らぐらいなの?」
「五百万」
「幾ら何でも安くない?」
「持ち主が毎回不可解な死に方をしてるんだと」
「呆れた事故物件じゃない」
「それが……」
「どうしたの?」
「事故物件と言う訳ではないんだよ」
「なんでまた」
「死んだ持ち主は風邪や脚気に栄養不足などで死んだんだ」
「食事に気を付けていれば良い話なのに不思議ね」
「そうなんだよ~~だから購入はどうする?」
「そうねえ~~買うのは止めましょう」
等と言って話は此処で終るはずだった。
「じゃあ……」
「待って」
購入するのは止めようという父の話を遮る母。
「購入しましょう」
「え?」
母の表変に戸惑う父。
人が変わったようだ。
母が。
「この鏡よく見たら素敵じゃない?」
「でも買わないって……」
父に迫る様にランランと目を輝かせる母。
何か異様だった。
ふと自分の視線が鏡に向いた。
両親の姿が写ってる。
鏡の母は此方を向いていた。
何か違和感を感じた。
今考えれば。
「家はどうでも良いの鏡を気に入ったの」
「家を買わず鏡だけ単体で売ると言うのは不動産の話では駄目だそうだ」
その言葉に僕は首を傾げた。
鏡だけ単体で売らない?
何で?
「正確に言えばお風呂場から鏡を外さないで家を売りたいそうだ」
「あらそう」
奇妙な条件だった。
「なら買いましょう」
「いや~~」
「この鏡見てよ良い物でしょう」
「う~~ん」
母が父に対して鏡を見るように促す。
暫くして父の目がトロンとした。
「そうだな良い家だし買うか安いし」
「そうよ」
「そろそろ定年退職だし思いっ切って買うか」
「そうそう」
楽しそうに話す両親。
何かがおかしかった。
ふと鏡を見た。
鏡の両親は此方を見ていた気がする。
鏡の中の両親は何かを訴えるように。
「ねえ貴方も頭金出してくれるわよね」
「お前の名義にするからな」
向こうを向いて話していた自分の両親が此方を向く。
その目は何かがおかしかった。
「分っているよ」
僕の居る鏡の中からではない。
合わせ鏡の中からではない。
鏡の前に居る僕ではない自分が返事をした。
後で知った事だが 鏡は古くから「邪気を跳ね返す」ための道具として使用されてきた。
正しく使用されたらだが。
玄関に大きな鏡それに無数にある合わせ鏡。
民間伝承には鏡は魂を吸う力が有るとされる。
若しくは鏡は霊界の入り口だと言いう事を後で知った。
両親共々身をもって。




