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第4話 親友とそうじゃない人達

今回はすべて陽太目線です。

『気をつけろ。明日、何か起きる。』

『教えてくれて、ありがとう』


 この会話だけが残る、俺の裏垢をただ眺めていることしかできなかった。こんな忠告をしたのは、帰りに修太がいじめメンバーを集めたことがきっかけだ。


「おもしれえからさ、今度はこれ。流してみようぜ」

「こりゃすげえ」


 俺はよく見えなかったが、DMの履歴のようなものだった。それを何に使うかが分かったらいいんだが。俺は忠告することしかできなかった。


「親友を助けられない俺って、存在意義あんのかな」


***


 次の日の朝、空気はすでに重たかった。廊下のざわめきが、まるで嵐の前の静けさみたいだった。


「おい、聞いたか?名張、またなんかやったらしいぞ」


 今や、いろんな人が囁いて、噂をどんどん膨大なものにしていって広めている。YITTERを開いて、タイムラインを見る。そこには、偽のスクリーンショットがあった。他のみんなは信じ切ってしまっているが。


『名張が生徒会長にしつこくDMを送ってた』


――そんな投稿が何百件も拡散されていた。

 本当は全部、修太が作った嘘だ。俺はそれを知っている。けれど、誰にも言えない。言った瞬間、次は俺が“狙われる”から。だけど、親友は守りたい。なんて自分勝手なんだろう。


 ホームルーム前の教室には笑い声と囁き声、カメラのシャッター音が。2-Cにある徹の机の上には、昨日の落書きの残骸がまだ残っている。廊下から覗いてもはっきり見えるくらいに。「死ね」「最低」「犯罪者」――黒いインクが滲んで乾いていた。


「おい陽太、あいつ来たら動画撮っとけよ」


 学校に投稿してきた修太が、笑いながら俺の肩を叩く。

 

「炎上ネタにしてやる」


――笑顔のまま言うその顔が、心底怖かった。


 俺は頷くしかなかった。頷かないと、“仲間外れ”にされる。たった二日でそれが、今の北川道高校二年生のルールとなりつつあった。


 チャイムが鳴る少し前、教室のドアが静かに開く。俺の親友が、ゆっくりと入ってきた。俯いたまま、誰の目も見ずに席に向かう。クラスの空気が、一瞬で変わった。

 沈黙。次の瞬間、誰かがペンを落とす音。そして笑いが広がる。


「おい、ストーカーくんおかえり〜」

「また保健室行くんじゃね?」

「生徒会長の家にGPSつけてんじゃね?」


 俺は、机の下で拳を握った。胸の奥が痛い。でも、声を出せなかった。修太の目が、俺を見ていた気がしたからだ。頑張って学校へ来たのであろう親友の姿は、まるで死んでいる人のようだった。


***


 俺は隣のクラスの生徒だから2-Cのことをずっと監視することができない。ただ、修太の情報は集めやすい。馬鹿なのか何なのか知らないが、嘘の情報を流しているということを堂々と言っているのがある意味尊敬できるくらいだ。その行動を見習う奴なんて一人もいないだろうが。

 弱みを修太に握られ、無理やり動かされている人もいれば、俺みたいに別にいなくなってもいいが、総当たりされるぞと言う2パターンがある。半分くらいは後者だが、親友の彼女は、前者の方にしか見えない。

 あまり乗り気でなさそうだし、顔色も悪い。それでもって最近は声のトーンも低くなってるような気もする。


「おはようございます。早速ですが、あなたたちに聞いてもらいたい話があります。それは、いじめについてです」


 教室が騒然している。教師が一日二日でいじめと判断するなんて。とでも言ったかのように。


「ある人から密告がありました。いじめられている人が悪いとはいえ、いじめは良くないと思いますと」


 修太がキレ気味…のように見せかけてる。これも何かの計画なのか…。


「このメモで密告してきた人もあれですが、いじめは重大な学校の事件になってしまう可能性もなくはないのです。もう少し考えて行動しましょうね」


 え…。たったこれだけの注意で済ませる気か…?


「それと、いじめられている人についてですが、何やら人の彼女を奪ったらしくねぇ。その子をどうするか学校で処分を考えているんですよ」


 俺は思考が停止した。処分?あいつは何もしてないってのに…?言いたい。あいつは悪くない。悪いのはこの場にいる全員だと。だけど、そんなことしたら…。親友と自分を選べないなんて、あいつの親友失格だとわかっているのに。


***


 俺の親友はまた早退した。また過度な嫌がらせがあって、牛乳をかけられたとか。放課後の教室には、修太を中心にした小さな輪ができている。


「修太の嘘って本当だったりしちゃうパターンか?アイツ、やってたんじゃね?」

「あいつの裏アカもバレたしな」


――誰かが画面を見せ、笑い声が起きる。その中で、俺は立ち上がった。


「……なあ修太。もうやめね?」


 その瞬間、空気が止まる。修太の笑顔が、ゆっくりと消えた。


「……なんだって?」

「これ以上やったら、本当に壊れる。名張も、俺たちも。先生がもう動いてるんだよ」


 修太は、ゆっくりとスマホを机に置いた。


「出水、お前さ……まさか“あいつ”の味方すんの?」

「ち、違う。そういうことじゃ――」


 咄嗟に自分の本心じゃないことを喋ってしまう。


「じゃあ証明しろよ。」


 その声に、周りが笑う。


「証明って、何を…。

「簡単だよ。次学校がある、来週火曜に、お前が“あいつ”に水ぶっかけろ。それで信じてやる。」


 笑いが再び広がる。俺は、何も言えなかった。ただ、うなずくしかなかった。


***


 家に帰っても、スマホが震え続けた。SNSの通知、クラスのグループ、修太からのDM。

『来週、カメラ用意しとくからな』

『お前がやらなきゃ、次はお前の番だからなw』


 震える手でスマホを伏せた。何もかもが、腐ってる。誰も止めようとしない。みんな、怖がって、見ないふりをしている。

 ふと、昨日のYITTERを開く。名張からの未読メッセージが一つ。


『信じてるよ』


 胸が締めつけられる。あいつは、まだ俺を“親友”だと思っている。このメッセージを読んでようやく決心がついた。この方法でだったら助けられる!

2025/11/14 一部修正

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