第12話 転校生と登校
部屋に戻ると、スマホに通知が来ていた。夏奈からのDMだ。
『今日、色々とごめんね。…そして、生きててくれてありがとう』
何この人、急に距離近い。あれか、自分の言葉でこう言うこと言えない系か?ツンデレか?
『助かったのは本当だよ。ありがとな』
少しして返信がくる。
『明日さ……一緒に登校してもいい?』
『なんで?』
『君を一人にしとくと、また屋上行きそうだから』
『行かねえよ』
『フッ、信用できないわね』
『お前なぁ、少しは信用してくれよ』
『じゃあ決まり。明日は貴方の家の前で待っているから』
強引すぎる。
けど……悪い気はしなかった。
(……ちょっとだけ、楽しみかも)
この夜は、久しぶりにぐっすり眠れ、朝起きたのは、七時だった。
家を少し急ぎ目でに行くと、夏奈は制服に薄いカーディガンを羽織って待っていた。
「おはよう、徹くん」
「お、おはよう……」
近くで見ると、昨日よりも綺麗に見えるのが悔しい。
「緊張してる?」
「まあな。今日どうなるやら」
「大丈夫よ。君には私がついてるんだから」
その言葉は軽いのに、妙に安心感があった。並んで学校まで歩く間、まるでロボットのように微妙な間隔を一定に保っている。
「ねえ、あのカフェにこれから毎週行かない?あそこ気に入っちゃったんだよね〜」
「確かにコーヒー美味しかったし。俺でよければ毎週行ってやるよ」
「奢ってくれない?」
「それは無理」
そう言えば、昨日は学校を途中で抜け出し、全生徒にそれを目撃されると言うことがあったからか、周りからは凄い目で見られている。隣にいる夏奈も例外ではない。「こんな美少女学校にいたっけ?」とか「なんで隣があいつなんだよ」と言う声まで、様々な話し声が聞こえてくる。
「えっと…、夏奈?ちょっと周りがざわついているような…」
「気にしないでおくことが一番よ。貴方だっていじめられた時はあまり気にしてなかったんでしょ」
「まあ、そうだけど、なんというか、これは別種類で…」
「じゃあ、また私を引っ張って学校まで走り抜けるとでも言うの?」
「それは流石にごめんだな」
そう言いながら、周りを見る。同じクラスの奴らもちょこちょこいるようで、こちらをチラチラ見て来る。転校生が在校生とおなじ時間に来ていいのか?と言う疑問は生まれたが、気にしないでおくこととしよう。
「ごめん、先生と一緒に教室入らないといけないから、また後で」
「オッケー」
流石に転校生なので、別々になってしまうのはしょうがない。そう思って教室へと入ると…。
バシャーン。バケツがひっくり返されたかのような水が俺の上から降ってきた。いや、バケツをひっくり返したのか…。
しかも、塩素をしっかり入れたのかベタベタする上、鼻に入ると結構痛い。
「ゲホ、ゲホ、ウッ」
「見ろ!ゴミみたいな姿してるぜ!!」
周囲に笑いが広がる。「諦めたらそこで試合終了」と言う某有名人の言葉が脳裏に出てきたのと、夏奈と妹の存在がちゃんと頭の中にあったおかげで、平常運転を保つことができる。
「あれ〜?今日は逃げ出さないのかな〜?」
「あ、そう言えば、美少女と一緒に登校してきたぞ、こいつ」
「その彼女さんにこんな姿見せたくないんだもんね。しょうがないんだよね〜」
ゲラゲラと気持ちの悪い笑い声が頭に響く。だが、今日の俺は昨日よりは断然マシ。そのまま、席へと座る。グラッ、ドン。座った途端、視界は後ろに動き、頭に強い衝撃を受ける、今度はなんだ?
椅子は……無い。下げられたのか。前に怪我した部分に衝撃が行き、結構痛いが、それでも我慢。我慢を続けても良くないとは聞くが、転校生がやってくるまでの辛抱。これにたった数十分耐えればいい。そう、なぜか俺は思ったのだった。
***
予鈴が鳴ると、急いでみんなが座る。今日はちょっと遅れたこともあり、少しだけで済んだ。
予鈴が鳴り終わって少しすると、先生が入ってくる。
「えー、みなさん。今日は転校生を紹介する。いいよ、入ってきて」
扉が開く。そこにいたのは――昨日、俺と屋上で出会った美少女。そして、今日一緒に登校してきた人。だけど先程よりも少し表情が違う。背筋は真っ直ぐ、笑みは自信に満ち、まるで舞台の上のヒロインのようだった。
「草薙夏奈です。今日からよろしくお願いします」
教室がざわつく。
「え、可愛くね?」
「やば……」
「モデルかよ」
「あれ、徹の後ろ歩いてた子じゃね?」
ざわめきを受けて、担任が言う。
「席は、ずっと空いていた徹の隣。そこに座ってくれ」
(は?)
教室が一段とざわつく。口を開けたまま動かない者もいる。
夏奈は一歩ずつ、迷いなく俺の隣に向かって歩いた。そして、席に座りながら――俺のほうをちらっと見て、にこっと笑う。
(お前……わざとだろこれ)
「徹くん、今日もよろしくね?」
その一言で、クラス中に叫び声が響く。「なんで〜!?」と。




