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泣いた夜にも、朝日は昇る  作者: かわぐま


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第1話 入学

 二〇二三年(令和五年)四月六日。

 僕、鈴石弥龍(すずいしいより)は、少し大きめの制服に身を包みながら、期待に胸を膨らまして福島県白河市立白河中央中学校の門をくぐった。

 門の向こうには、クリーム色の三階建ての校舎が見える。

 二〇一六年に竣工したばかりで、清潔感漂う外壁で、まるで新築のモデルハウスみたいだった。

 昇降口から中に入り、名前の書かれた下駄箱に靴を入れる。

 ふと見渡した校舎の中は……想像以上だった。

「外観がきれいなら中もそれなりだろう」

 そう思ってたけど、これは“それなり”じゃなかった。

 床も壁もガラスも汚れがない。

 まるで毎日業者が入ってるんじゃないかってくらい完璧な清掃だが、これが生徒がやってると言うから驚きだ。

 ここでどんな中学生活が始まるのだろう

 期待でさらに胸が膨らむのを感じながら、入学前のオリエンテーションで知らされたクラス、一年四組へ向かう。

 四組は、生徒昇降口から一番遠くて、職員室のすぐ近く。

 位置的には正直ハズレなクラスだ。

「一組がよかったなぁ」とぼやきつつ、教室の前に立つ。

 これからこの場所で、どんな友達ができて、どんな毎日が始まるのだろうか。

 想像しただけでワクワクする一方で、少しだけ心の奥に引っかかる不安があった。


 それは、小学六年生の頃の話に遡る。

 僕の父親は、僕が三歳のときに母と離婚した。

 だからずっと母子家庭で、苗字は「佐藤」だった。

 そんなある日、いつものように家に帰ると、母がいきなり言った。

「今晩、新しいお父さんになる人を紹介するから、空けといてね」

 ……は?

 いやいやいや、そんな急に言われても心の準備が追いつかないんだが!?

 心の中で全力抗議したけど、当然届くわけもなく、夜になった。

 車で連れて行かれたのは、白河総合運動公園の駐車場。

 そこに黒いミニバンが停まっていて、恰幅のいい男性が降りてきた。

「弥龍くんだよね。初めまして」

「……初めまして」

 妙な威圧感に気圧されながら、ぎこちなく挨拶を交わす。

 そのまま簡単な外食をして、その日は終了。

 どうせすぐ別れるだろうと思っていた。

 しかしその後、彼は少しずつ家に出入りするようになり、気づけば同棲していた。

 そして一ヶ月も経たないうちに、母は婚姻届を提出していた。

 その日から僕の苗字は「佐藤」から「鈴石」になった。

 ただ、母と学校の計らいで小学校では旧姓のままで、中学から現性を使うことになった。


 とどのつまり、今日から「鈴石弥龍」での学校生活のスタートである。

 正直、この手の話題はあんまり触れられたくない。

 でも、同年代の生徒はどっかの週刊誌な情報網を持っている。そのため、確実に何人かには聞かれるだろう。

 予測可能回避不可能というやつだ。

 そんな憂鬱を振り払うように深呼吸して、教室の扉を開けた。

 そして、五秒で後悔した。

「うるっさ!!」

 中はまるで戦場。

 誰かがヘッドロックをかけ、誰かが意味不明なダンスを踊り、笑い声と奇声が入り混じるカオス空間。

 ここ、本当に中学校?何かの居酒屋ですか?って本気で疑った。

 呆れつつ荷物をロッカーに突っ込み、自席に座って文庫本を開く。

 せめて心だけでも平穏でいたい。

 ガラガラ。

 扉が開き、男性の先生が入ってきた。

「今、体育館では始業式が始まっています。このあと入学式をやるので、この紙の順に廊下に整列してください」

 そう言って、黒板に名簿を貼る。

 僕たちは順番を確認して、ぞろぞろと廊下へ。

「それでは入場を開始します」

 先生の号令で列が動き出す。

 体育館に近づくと、入学式の定番BGMが聞こえてきた。

 音が大きいな、と思ってたが、中に入って驚いた。

 スピーカーじゃない。

 器楽部の生演奏だ。

 重厚な音が体育館全体を包み、空気が震える。

 赤いカーペットの通路を歩きながら、両サイドの先輩たちを見る。

 知らない顔ばかり。でも、なんか全員怖い。

 あの「新入生見下ろしオーラ」、全国の小中高共に共通なのだろうか。

 全員が席に立ち、合図で一斉に座る。

「開会の言葉」

 教頭先生が登壇し、一礼して宣言する。

「ただいまより、令和七年度 白河市立白河中央中学校 入学式を挙行いたします」

 続いて生徒呼名。

 名前が淡々と読み上げられていく。

「……渡辺康太、渡部乃愛。以上、一組三七名、二組三六名、三組三七名、四組三七名、計一四七名、着席」

 一斉に「ガタッ」と椅子が鳴り、式は進んでいった。

 校長先生の長い話、来賓紹介、生徒会長の激励の言葉など全部を経て、ようやく退場の時間。

 そのときだった。

 四、五人前を歩く同じクラスの男子が、先輩たちに向かって堂々と中指を立てた。

 ……バカじゃねぇの!?

「……終わった」

 僕はそう独り言つ。

 教室に戻ると先ほど中指を立てた男子が先生に呼び出されて、今日は入学式が終わったら下校なため他の生徒は下校の準備を始めた。

 準備が終わりしばらくすると代理の教師が入ってきて帰りのあいさつをしてから下校となった。

 中学校生活、一日目にして前途多難である。

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