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【完結】【連載版・書籍化準備中】結局、教室の隅っこでコソコソ盛り上がってる陰キャ貴族令息たちの話が一番面白い  作者: ミズアサギ
二学期

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【欠席】 侍女・アンの日記

【重要! ご注意!】

お話に「ニョロニョロ」が出てきます。苦手な方はこの回を無視するか、頑張って薄目でお読み下さい。

番外編にあたるので、とばしても問題無いです。

幼いアランがやらかします。

 

「……うーん」


 近衛隊による学園の視察期間。

 昼間なのにカーテンを閉じた自室のベッドでは、顔を赤くしたシモーヌが高熱でうなされていた。入学してからは欠席するほどの熱を出さなかったシモーヌだが、疲れや緊張が積み重なったのだろう。ここへきてデビュタント以来の高熱を出した。



「シモーヌお嬢様。残念ですが、アラン様にはまたお会いできます。ゆっくり休んでいて下さいませ」


 そっと入室した侍女のアンが、意識のないシモーヌに声を掛ける。先ほど往診した医者からの薬をサイドテーブルに置き、アンは寝ているシモーヌの顔をじっと見つめた。




 アンはシモーヌ専属の侍女で、アランによる『カエルお散歩騒動』の被害者でもある。

 シモーヌお嬢様はお気の毒だ。

 アンは唇を噛んだ。幼い頃から大切な行事があると必ず熱を出してしまう。その行事を楽しみにすればするほど、回復に時間が掛かるほどの高熱を。

 他のご令嬢に比べて、シモーヌが社交に疎いのはそのせいだとアンは思っている。


 楽しみにしていた学園生活だったが、入学して三ヶ月ほど、シモーヌは毎日暗い顔をしていた。その時はとても心配したが、最近のシモーヌはいきいきとして楽しそうだ。その上、近衛隊視察の案内係という大役を任されたらしい。

 よほど楽しみだったのだろう、帰宅後も一生懸命に下準備をするシモーヌの姿を思い出すと、アンは大きなため息を漏らした。

 アンはベッド横の椅子に腰掛けると、そっとシモーヌの額の汗を拭いた。荒い呼吸で眠るその寝顔は、アンに幼い頃のシモーヌを思い出させた。


 アンが記憶する幼い頃のシモーヌは、いつも熱を出して寝込んでいた。熱が下がっても体力が戻るまではベッドから出られない。アンはシモーヌに本を読み、一緒に刺繍をして過ごした。最近は寝込むことのないシモーヌだが、苦しそうな寝顔は、その頃のシモーヌの寝顔と重なる。

 シモーヌの無念を思い目を閉じたアンは、シモーヌの両親と三日三晩寝ずの看病をしたあの日のことを鮮明に思い出してしまった。

 アンが懸命に記憶にふたをした、一生忘れることのない、あの出来事を。




 幼いシモーヌが、その小さな命を脅かされる高熱を出した日。

 侯爵夫妻やアランだけでなく、使用人全員も心配して天に祈り、そして懸命な看病をした。その甲斐あって、四日目の朝にようやくシモーヌの熱は下がり始めた。夜の間、ずっとシモーヌの看病をしていたアンは、ほっと胸を撫で下ろした。

 そろそろ交代の侍女がやって来る時間。夜間は静かだった侯爵家も、まもなく使用人たちが動き出す。アンはシモーヌの様子を家令に伝えるため、少しの間だけシモーヌの側を離れた。家令に解熱したことを伝え、朝の薬を持ってシモーヌの元に戻ったアンは、危うく悲鳴を上げそうになる。


 アンは寝ているシモーヌの額に、氷嚢代わりに固く絞ったタオルを乗せていた⋯⋯はず。

 しかし今、シモーヌの額には、()()の抜け殻が綺麗に置かれているのだ。

  目に飛び込んできたモノを頭が理解した瞬間、アンは自分の口を両手で押さえて声を殺した。


 アレが得意ではないアンは泣きそうになりながらも、必死にシモーヌの額からアレの抜け殻を剥ぎ取った。

 正直触りたくなかったが、主を守る侍女の矜持だけがアンを動かした。後から来る侍女がアレを見て大声を出してしまっては大変。アンはエプロンのポケットからハンカチを取り出してアレを包んだ。

 そして、腰が抜けたように床に座り込んだまま考えた。犯人には心当りがある。いや、心当りしかない。これは奥様に報告する案件だ。

 アンは交代に来た侍女にはこのことを伝えず、報告のために、アランとシモーヌの母であるベルジック侯爵夫人の元へと急いだ。



 そしてアランは泣きながら、侯爵夫人のお説教を二時間も受けることになった。


 シモーヌが高熱を出してしまい、一緒に遊ぶどころか顔すら見ることができない。シモーヌを心配しすぎた末のアランの犯行には情状の余地がある、という侯爵の裁断で説教二時間の刑が下されたのだ。

 熱に苦しむ不憫で可愛いシモーヌに、自分が持っている中で一番ひんやりしていて、一番格好いいアレをあげよう。

  アランは、先日庭でニョロニョロ脱皮していたイカしたアイツを思い出した。抜け殻を綺麗に洗って大切に保管していたアランは、早起きをしてアンが席を外した数分の隙をついて犯行に及んだ。

 これがアレではなくてお気に入りのハンカチであれば、兄の愛が溢れる微笑ましい美談で済んだのだろう。


 アンにもアランと同じ年頃の息子がいる。侯爵家嫡男様と比べるなんておこがましいが、それでもアランは色々な意味で桁が外れているとアンは痛感した。

 幸いずっと寝ていたシモーヌに、このことは知られていない。アランはもちろん、事情を知った使用人たちには箝口令が敷かれた。

 シモーヌは未だに、この事件を知らないだろう。

 すべてを思い出したアンは、ブルッと身震いをした。そして苦笑いする。


 今のアランなら、まともにシモーヌを見舞うことができるだろう、多分。しかし残念ながら、多忙を極める今のアランは、シモーヌに会うことすらできない。

 今回の熱もアランはかなり心配しているようで、見たことのないような大きな花束が毎日タウンハウスに届く。


 アラン様は本当にお嬢様が可愛いのね。

 お二人が再会できる日がはやく訪れますように……アンは心からそう願った。


今日もお読みいただき、ありがとうございます。


第一部完結まで、残り10話(仮)となりました。

第二部も鋭意作成中です。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
カブトムシとか、デカいセミとかクワガタとか デンデン虫の殻とか想像して 説教2時間は、妥当なおしおきだと思いました。 アカーーーン!!
ニョロニョロっていうから、てっきりムーミン…は、ないとして土を耕してくれるミミズさんの大群をソッ…とやらかすのかと思ってました(ง˘ω˘)ว
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