表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】【連載版・書籍化準備中】結局、教室の隅っこでコソコソ盛り上がってる陰キャ貴族令息たちの話が一番面白い  作者: ミズアサギ
二学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/45

第三十二話 助け船とフラグ

 

「案内係、私がしましょうか?」


 意外なことに沈黙を破ったのは、今まで興味なさそうに自分の席に座っていたアデルだった。全員の視線がアデルに移る。


「だって、すごく嫌なのでしょう? 私だったら案内係もしっかりと務めますわ。シモーヌさんより適任かと」


 一部の女子がキッとアデルを睨みつける。最近のアデルは、二年生どころか三年生の教室までに出没しているという噂がある。

 そんなアデルの婚約者探しは相変わらず上手くいってはいない。せっかく近衛隊が学園に来るのだ。これを機に、アデルはターゲットを学生から近衛隊に代えるつもりなのだろう。


「シモーヌは入学してからアラン様に会えていないんだろう? 案内係になれば、アラン様とも会えるんじゃないか?」


 アデルを無視して、フランシスがシモーヌに話し掛ける。皆、アデルからシモーヌに視線を戻す。


「そうですね。アラン様もシモーヌ嬢の活躍を見たいのではないでしょうか」


 ジルもフランシスの意見に同意する。


「兄は近衛隊、妹は生徒代表の案内係なんて親御さんも喜ぶぞ」


「そうだな。それにベルジック兄妹が並ぶ姿なんて貴重だよ」


 ビクターとジョルジュが言うと、女子からも見たい、見たいという声があがった。

 シモーヌは俯いた。大勢の人の前に案内係として立つのはすごく怖い。怖いが、ここで逃げてしまったら、アランの妹には責任感がないという噂が立つかもしれない。それが近衛隊に広まれば、アランが恥ずかしい思いをすることになる……。

 シモーヌは顔を上げた。クラスメイトたちが心配そうにシモーヌを見ていた。



「皆さん、ごめんなさい。私、案内係をやってみます」


 シモーヌが言うと、皆、ホッとしたように息をついた。


「シモーヌが辞退したら、女子総当たりの大乱闘が始まっちまうぜ」


 ビクターが言うと笑いが起こり、ジョルジュが俺も観たいと笑う。


「勝つのはあいつかな」


 ジャンがチラリとアデルを見ると、アデルはフンッとそっぽを向いてしまった。


「長期のお休みの前に、シモーヌさんは悩んでいましたね。そして、自分で行動を起こして解決されました。あなたは、あなたが考えているよりも行動力があるんですよ」


 レニーがシモーヌの背中をさすりながら言うと、


「困ったことがあれば、いつでもお手伝いしますわよ」


「シモーヌさんは刺繍のステッチをたくさん教えてくれた。今度は私が助けるわ!」


 と、一緒に刺繍をした女子たちが口々に言い出した。刺繍に加わっていなかった女子たちも、シモーヌに笑顔を向けて頷いている。

 少し離れた所にいたローズも大きく頷いた。ローズの隣には笑顔のジョセフが寄り添っている。今日は喧嘩していないらしい。


「俺たちで近衛隊のまねをするから、俺たち相手に練習してみれば?」


 ユーゴが頬を赤らめながら言うと、ユーゴの近くにいる男子たちも次々にシモーヌに声を掛けた。それを見たフランシスとジルが「爆ぜろ」と声を揃える。


「正直、シモーヌさんが落としどころなのよ。案内係になっても文句が出ないでしょうし。女子生徒が揉めないためにも引き受けて下さらない?」


 そこまで言われて、いよいよシモーヌも覚悟を決めた。

 シモーヌはアデルにもお礼が言いたかった。アデルの思惑には気づいていなかったが、シモーヌの窮地を救おうと声をあげてくれたことが嬉しかったのだ。

 しかしアデルは、休憩時間も放課後も教室にはいない。シモーヌはアデルにお礼を言いそびれてしまった。



 その日、男子生徒による行進が初めて成功した。一糸乱れぬ行進に、剣術の教師は感動のあまり男泣きした。

 近衛隊の入団条件に身長がある。ある程度身長が揃っている近衛隊とは正反対のデコボコの集団が、こんなに見事な行進をするとは夢にも思ってもいなかったのだ。

 剣術の教師は、この生徒たちの将来を思い興奮した。それはアランを受け持った時以来の興奮だった。



 視察までのあと少し。男子生徒もシモーヌも、それを支える女子生徒たちも、近衛隊の視察に備えて毎日を一生懸命に過ごした。男子生徒は近衛隊になりきりシミュレーションをすることでシモーヌを手伝い、女子生徒は近衛隊の待機所となる応接室の飾り付けを行った。


 困ったことがあると、シモーヌは勇気を出して助けを求めた。男子も女子も嫌な顔をせずに、話を聞き手伝ってくれた。シモーヌはそれがとても嬉しかった。

 力を貸してくれたクラスメイトのためにも、案内係をしっかり務めよう。意識に変化が芽生えると、シモーヌの様子も変わっていく。いつも聞き役だったシモーヌが自分の意見を伝えられるようになり、その表情は自信に満ち溢れた。




 近衛隊が視察に来る前日。明日に備えて早く帰宅するように促された生徒たちは、早々に教室を後にした。シモーヌたちもソワソワしながら帰り支度をする。


「いよいよ明日だなー」


「明日の模擬戦はジョルジュに勝つぞ」


 ジャンとビクターの意識は明日に向かっている。


「シモーヌは緊張している?」


 フランシスがシモーヌに尋ねると、シモーヌは笑って首を横に振った。


「スケジュールも学園の地図も、すべて頭の中に叩き込んだわ。今は緊張よりも楽しみでいっぱいよ」


 良かった、とフランシスも笑う。しばらく笑っていたシモーヌだが、急に思い出したように言った。


「私、大事な日は必ず熱を出していたの。習い事の発表会からお誕生日会、お茶会などすべて。最近ではデビュタントも」


 デビュタントは楽しみにしていた分、過去一番の高熱が出た。入学直前に行われたデビュタントを欠席したせいで、知り合いができないまま入学式を迎えることになったのだ。


「デビュタントに熱って、シモーヌは本当に不運だな」


 近い将来、妹がデビュタントを迎えるジャンが気の毒そうに言った。


「あんな高熱は初めて。夢の中では、川の向こう岸にいるお祖父様が手を振っていらして」


「亡くなったお祖父様が夢に出たってことは、そうとうヤバかったんだな」


 ビクターが神妙な顔で言う。


「え? お祖父様は、今もピンピンと旅行三昧よ」


 キョトンとした顔でシモーヌが言うと、なんだそれ、と三人は笑った。


「入学後はあまり熱を出さなくなったんだけど、ふと思い出してしまって⋯⋯」


 苦笑いするシモーヌに、ビクターとジャンが更に笑った。


「もう、知恵熱が出るって年でもないし大丈夫だよ」


「そうそう。じゃあ、明日はシモーヌにとってのデビュタントだな。シモーヌは白いドレスを着て来いよ」


 制服の学生の中に一人だけ、白いドレスで近衛隊を案内するシモーヌ……。想像した四人は大笑いした。笑いながら教室を出た四人は、明日の成功を信じて手を振り合い帰路についた。

 そして迎えた近衛隊の視察日当日。




 シモーヌは過去一番を更新する高熱を出した。




シモーヌっ!


お読みいただきまして、ありがとうございます。

そうなるよなーと思った方も予想外だった方も、評価や応援をしていただけたら幸いです。

次回は兄アランが?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お客様の中にフラグクラッシャーはいらっしゃいませんか〜泣
あぁ…フラグをしっかり回収していく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ