表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】【連載版・書籍化準備中】結局、教室の隅っこでコソコソ盛り上がってる陰キャ貴族令息たちの話が一番面白い  作者: ミズアサギ
二学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/45

第二十二話 シモーヌの嫉妬とアデルへのお詫びの品

 

「三人とも、本気でそんなことを思っているの?」


 それまで黙って聞いていたシモーヌが、呆れたように言った。


「話の内容を聞く限り、会話に困ったアデルが気を遣ってくれたようにしか思えないわ。質問に答える形にすれば、会話が成り立つじゃない?」


 シモーヌはそう言ってから、これは使えるわ、さすがアデルねと感心した。


「やっぱりそうなのかぁ。お茶会って目的がわからないから、絶対そうだと思ったんだけど」


 少し残念そうにジャンが頬を掻く。女子に好意を向けられた経験がない三人は、やはりお茶に誘われて舞い上がっていたのだろう。


「話はそれだけなの?」


 シモーヌが聞くと三人は「そうそう」と、それぞれポケットから小さな封筒を出した。


「僕たちが会計で揉めているうちに、アデルが全員分を支払ってくれたみたいなんだ」


 さすがのシモーヌも、三人のポンコツぶりに唖然とした。


「本当は俺たちがアデルの分も払おうと思ってたんだぜ。誘ったのはアデルだけど」


 どこか納得していない感じのジャンだが、それでも払う意思はあったらしい。


「ちゃんと昨日の代金は持ってきた。割り切れなかった分は召喚獣の……」


 封筒に入った硬貨をチャリチャリ振るビクターを遮り、フランシスがシモーヌに言った。


「それだけでは申し訳なくてさ。三人でお詫びというかお礼というか、そんな物を添えようって話になったんだ。でも、僕たちでは何を渡したらいいか思いつかなくて……」


「お小遣いも残ってないし」


 本当はこのことを相談したくて、三人は放課後にシモーヌを引き留めたのだ。



 三人がアデルとお茶会に行くと聞いた時、シモーヌは大切な友人を取られたみたいでモヤモヤしていた。

 しかし話を聞くと、自分が思っていたようなお茶会ではなかったことに安心した。同時に、三人にお詫びの品をもらえるアデルが少し羨ましいと思った。自分にこんな感情があることを知って、シモーヌは愕然とした。


 友人ができると、こんな醜い感情を持つものなのか?

 以前、女子グループが揉めているのを目撃した。確か、他のグループの子と仲良くしたとか何とか。その時はそんなことで揉めるなんて理解できなかったが、今なら彼女たちの気持ちがわかる。わかるが、自分のことが嫌いになりそうな感情だ。


「聞いているのか? シモーヌ」


 急に話さなくなったシモーヌに、ビクターが声を掛けた。


「あ、ごめんなさい。そうね、お詫びの品ね」


 明らかに、シモーヌは暗くなっている。


「何か気に障ることを言ったかな?」


 フランシスがシモーヌの顔色を窺いながら尋ねた。シモーヌは言おうか言うまいか迷ったが、モヤモヤするぐらいならと意を決した。


「実は私、昨日三人がアデルとお茶会をすると聞いて、すごく変な気持ちになったの。三人とアデルが仲良くなるのはとても良いことなのに、取られちゃうって思ってしまって……」


 いつもはすぐ茶化す三人だが、口を挟まずシモーヌの話を黙って聞いていた。


「おかしいでしょう? フランシスもジャンもビクターも、私のものじゃないし誰と過ごそうと自由なのに。そこに自分がいないことが寂しくて」


 シモーヌがそこまで言うと、三人は顔を見合わせて、そしてなぜか照れたように笑いだした。


「それはシモーヌにとっての俺たちが、誰かに取られたくないぐらい大切な友人ってことだろう?」


 ジャンが笑いながら言う。


「それ、わかる。俺も秘密基地にフランシスとジャンが二人だけで行っていたら、絶対に暴れる自信がある!」


 暴れるというのはシモーヌにはわからないが、どうやらビクターはシモーヌの気持ちをわかってくれたようだ。


「シモーヌは、僕たちが初めてできた友人って言っていただろう? だから余計に取られると思って焦ってしまったんだね。誰にでもある感情だと思うよ。嫉妬っていうのかな?」


 フランシスがフムフムと考えながら言った。そうか、これが嫉妬か。シモーヌは嫉妬、と呟いた。嫉妬。こんな嫌な感情なくなればいいのに。


「嫉妬してくれたって聞いて、なぜか少し嬉しい俺がいる」


 ジャンが照れながら言うと、フランシスもビクターも嬉しそうに頷く。嫉妬されるのは嬉しいのか? 嫉妬とは難しい。難しい顔をするシモーヌに、浮かれた様子のジャンが言った。


「シモーヌだって、もし他の人と遊びに行ったことを俺たちが怒ったら、少し嬉しいだろう?」


「え? 全然嬉しくないわ」


 眉をひそめながらシモーヌが言うと、予想外の反応だったのかジャンは絶句した。


「だってそんなことで怒られても困ってしまうわ」


「でも、それがシモーヌがアデルに抱いた感情だろう?」


「そうね。だけど何か違う気がする。ますます混乱してきたわ」


 こめかみを押さえるシモーヌに、今度はビクターが聞いた。


「シモーヌは俺たちがアデルとお茶会に行くと聞いて嫉妬しただろう? じゃあ、例えば俺たちの中の誰かがアデルと婚約したら、シモーヌは嫉妬するのか?」


 婚約という言葉を出したビクターに、フランシスとジャンはギョッとする。シモーヌはうーん、としばらく考えてから、


「別に。想像したけれど、普通におめでとうと思ったわ」


 と、あっけらかんと言った。三人はなぜか少しだけ元気がなくなり、そしてうーんと考え込んだ。


「あ、お茶会も、アデルとフランシス、アデルとジャンなら平気かも」


 ひらめいたように言うシモーヌに、しばらく考えていたフランシスが正解を出した。


「シモーヌは嫉妬を感じたんじゃなくて、『仲間はずれ』が嫌だったんじゃないかな」


 仲間はずれ! その言葉を聞いた瞬間、シモーヌの心にかかっていた黒い霧はパッと晴れた。嫉妬なんて醜い感情じゃなくて良かった! シモーヌは笑顔で、仲間はずれ、と呟く。


「きっとそれだわ! ありがとう。一人でモヤモヤするより友人に相談するのが解決への近道ね」


 ご機嫌なシモーヌを見て、三人は友人って難しいなと笑い合った。

 その後は上機嫌なシモーヌが色々提案して、三人はアデルへのお詫びの品を()()し、お茶代が入った封筒と共にアデルの机の中に入れておいた。



 翌日机の中を見たアデルは、お茶代が入った封筒だけを鞄に入れた。心のこもった、下手くそな三人の似顔絵が描かれたスケッチブックは、考えた末にそっとクリストフ殿下の机の中に入れておいた。



お読みいただきまして、ありがとうございます。

明日からの三連休は、お昼頃の投稿になります。


友達への独占欲に心当たりがある方も無い方も、評価や応援をしていただけたら幸いです。

誤字脱字報告、ご感想ありがとうございます。

とても励みになっています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
( ゜д゜)ハッ! ビクターは…!?
何で殿下の机www
何? このカワイイ男子たち!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ