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【完結】【連載版・書籍化準備中】結局、教室の隅っこでコソコソ盛り上がってる陰キャ貴族令息たちの話が一番面白い  作者: ミズアサギ
二学期

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第二十一話 俺たちのターン

 

 すっかりお茶もなくなり、給仕係が二杯目の珈琲を入れようとする。アデルは慌てて、給仕係に四人とも果実水が飲みたいと伝えた。三人はあからさまにホッとした顔を見せ、アデルも珈琲色をした砂糖水を見なくて済むと安心した。



「アデル嬢は……」


「アデルでいいわよ。殿下もレニー様も仰っていたでしょう。学園にいるうちは爵位も身分も関係ないと」


 会話をしていくうちにアデルは、「アデル嬢」と呼ばれることに不満を覚えた。


 シモーヌと呼ばれる彼女に対抗している訳ではないが、なんだか距離を感じてしまう。

 きっとこの三人は、シモーヌを友人だと認めているのだろう。それとも三人にとってのシモーヌは、友人以上の何かなんだろうか?


「三人は、シモーヌを婚約者にしたいとか考えているの?」


 アデルは疑問をぶつけた。シモーヌに対する三人の感情に少し興味が湧いたのだ。三人ともが婚約者として狙っていたら、それはそれで面白そうだ。揉めれば、さらに面白い。


「え? 婚約者? まったく」


 三人は口を揃えて否定する。


「シモーヌは大好きだけど、考えたことなかったな。ベルジック侯爵家とは、貴重なジャムの仕入れ先として末永くお付き合いしたいけれど」


「シモーヌは俺より強そうな武器を考えるから、悔しくてダメwww」


「シモーヌに婚約を申し込むとしたら、まずはアラン様を倒さないといけないだろう。無理すぎるwww」


 三人は勝手なことを言い、ゲラゲラと笑う。


「そうかしら? 男と女なんてわからないじゃない?」


「ないないない!」




 アデルにとって不覚にも楽しかった時間は、あっという間に過ぎた。そろそろ、と四人は席を立つ。

 先に個室を出ようとしたアデルは、ゆっくり歩きながら考えた。この三人との会話は、余計な気を遣わなくていいのですごく楽だ。シモーヌが三人と楽しく過ごしている理由が、少し理解できた気がする。

 婚約者には難しいかもしれないが、友人として付き合うならアリかも。いや、婚約者としてもアリよりのアリだ。


「ねぇ、良かったらまた今度……」


 そう言いかけてアデルが振り返ると、三人は何やらコソコソ言い合っている真っ最中だった。

 どうやら、誰が会計を払うかで揉めているらしい。ここは私が、いいや私がってやつね。男の見栄っていうのもちゃんとあるじゃない、とアデルはにこやかに三人を待った。


「なんてこった! 三人で割り切れない!」


 フランシスが何度も暗算をし直す。どうやらアデルのお茶代を折半して払う予定だったらしい。


「俺、今月のお小遣い、もう使っちった」


「そもそも俺にはお小遣いがない」


 ジャンとビクターは硬貨を入れた袋を何回も覗き込む。


「よし、誰が多い分を払うか決めよう!」


「どうやって決める? 紙飛ばし? それとも召喚獣の絵が下手な奴が払う?」


「男らしく剣術で勝負はどうだ?」


 ──は? 私の分の押し付け合い? 

 信じられない! ナシ! やっぱりいらない、この三人! 婚約者としても友人としても不採用!

 アデルは賑やかな三人を置いて先に個室を出た。


「あの部屋のお会計、ルソー侯爵家に回してちょうだい。あと、さっきのクッキーを包んで」


 部屋の外に控えていた従業員にそう伝え、アデルは颯爽と出口に向かった。後ろではまだ、三人の楽しそうに揉めている声がしていた。




 次の日からアデルは、新たな婚約者候補を探して、より精力的に動き出した。ダメと思ったらすぐ次にうつる行動力は、伯爵家を陞爵(しょうしゃく)させた祖父譲りなのだ。


 あの三人を視界に入れることなく一日を過ごした放課後のこと。

 アデルは、帰宅しようとしている男子生徒を待ち伏せては声を掛けていた。めぼしい相手には声を掛け終えているので二周目である。

 一周目はアデルに合うかの試験だと考え、二周目は一度断られたが条件の良い相手への猛攻だ。種は撒いてもすぐには芽が出ない。何度も水と肥料をやり、必要であれば種を追加で撒く。無駄な雑草はとっとと刈り捨てる。農業で一山当てた祖父の口癖だ。


 しかし、今日もうまくいかない。明日の戦略を練っているうちに、校舎に残っている生徒はほとんどいなくなってしまった。

 仕方ない、今日は帰ろうと中庭に出たアデルは、なんとなく教室の方に目をやった。

 一階にある教室は五つ。そのすべてが一年生の教室だ。その中の一つ、自分の教室の窓際に、アデルはあの三人とシモーヌの姿を見つけた。視力の良さも祖父譲りなのだ。


 もしかすると、三人が昨日のお茶会のことをシモーヌに報告しているのかもしれない。

 まさか、三人のうちの誰かがアデルのことを気に入ってしまったのかも。それは困る。もうアデルの中では三人は不採用なのだ。でも、どうしてもというなら、もう一度お茶会をしてあげてもいいけどね……。


 そう考えると、四人の会話が気になって仕方がない。アデルは周囲に人がいないのを確かめてから、こっそりと中庭から窓に近づいた。

 幸いなことに、シモーヌたちはアデルに気がついていない。盗み聞きなんてはしたないが、あっさり好奇心に負けたアデルは、窓の真下にそっと座り込んだ。


「で、すごかったんだよ。昨日のアデル」


 フランシスの声がする。やっぱり私の話だ。アデルは息を呑んだ。


「俺たちのエスコートにびっくりした様子でさ」


 不可解にも椅子にハンカチを敷いたジャンの声。確かにあれにはびっくりしたわ、室内だし、とアデルは一人頷く。


「俺たちだって女子と会話ぐらいできるからな」


 得意気に言うのはビクター。ほとんどが質疑応答だったじゃないの、とアデルは眉をひそめる。まぁ、いい。誰が自分を気に入ったのかが知りたいのだ。


 フランシスなら爵位を継げない三男だとしても、伯爵家の商売には関わることができるだろう。

 ジャンはよくわからないが、近い未来身長は伸びそうだし、意外と成績はいいと聞いた。王宮に文官として仕えることができれば将来は安泰だ。

 問題はビクター。体格は三人の中で、いやクラスの中でも恵まれている方だ。アデル調べでは、四人いるビクターの兄は全員騎士として働いているらしいし、将来は兄たちと同じく騎士になれるだろう。

 騎士爵を賜れる功績をあげるまでは、アデルが金銭的にビクターを支えなくてはならない。

 貧乏騎士の妻としてやっていけるだろうか。いや、ビクターが強く望むならば、その時は覚悟しなければ。


 アデルは三人との未来を考えて頭を悩ませる。その時、ジャンが信じられないことを言った。



「アデルって俺たちの誰かのことが好きなんだぜ、きっと」


 ──は?


 アデルの頭の中にあった色々な思考が、一瞬にして無となる。


「僕も思った。はっきりとは聞いていないけど、さすがにあの態度でわかるっていうか」


「お、おう。さすがの俺らも察したって言うか……な?」


 フランシスとビクターも同意し、三人はやっぱりそうかと盛り上がった。


 ──なんでそうなるのよ、アンタたちが私のことを好きなんでしょう!


 アデルは顔を真っ赤にして激高する。勘違い男たちに制裁を、とアデルが立ち上がろうとした時、初めてシモーヌの声がした。アデルは再び座り込む。


「本当にそうなのかしら? はっきりと言われた訳じゃないのでしょう?」


 アデルは生まれて初めてシモーヌに同意した。うんうんと激しく頷くアデル。しかし、さらにジャンが畳み掛けた。


「だって、俺の背が低いことを心配して励ましてくれたんだぜ。それって、まぁそういうことだろ?」


 確信した様子で照れるジャンに、アデルは拳を握りしめた。


「僕がエスコートしている時のアデルの目を見たら……ね?」


 何が「ね?」だよ、ソバカスが。アデルはフランシスのエスコートに、一瞬でも感心した昨日の自分を軽蔑した。


「大体好きじゃなかったら、あれほど必死に質問攻めしてこないだろう」


 アンタたちが会話下手だからでしょう! 鼻につく言い方をしたビクターに、アデルの怒りは頂点を迎えた。


「気持ちは有り難いんだけど、ね?」


「俺たち、ひとつもそんな気ないし」


「本当にアデルには申し訳ないんだが」


 さらに放たれた妄言は、アデルに言い返す気力も失わせた。


 ──これは、アレだ。親切にすると勘違いする男がいるから気をつけなさい。入学する時にお父様から言われた、アレなんだ⋯⋯。


 茫然自失となったアデルは、ゆっくりと窓から離れると、フラフラと力なく去って行った。



ね?



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― 新着の感想 ―
モテない男によくある勘違い。あるある。
アデルの家族仲が良いのが何より!
3馬鹿とアデルのやり取りがもっと見たくなるw 最初は3馬鹿がかわいそ可愛いだったのに最後www
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