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【完結】【連載版・書籍化準備中】結局、教室の隅っこでコソコソ盛り上がってる陰キャ貴族令息たちの話が一番面白い  作者: ミズアサギ
二学期

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第十五話 シモーヌが忘れていた過去と忘れられていた人


「シモーヌ嬢に下心とは?」


 急に背後から声がして、四人は驚いて振り返った。

 シモーヌたちしかいない教室に、いつの間にかジルがいた。ジルの後ろにはジョルジュ、ベルナール、そして王太子のクリストフもいる。声の主はジルのようだ。


「フランシスがシモーヌ嬢に下心?」


 無表情のジルが眼鏡を上げながら、もう一度フランシスに聞く。ジルの後ろの三人は、いつもと違うジルの言動にやや戸惑っている様子だ。


「ああ。シモーヌのくれたジャムが美味しすぎて、フランシスが実家の商会で扱いたいっていうとんでもない下心を持っている。それでシモーヌを口説いているところだ」


 ビクターがジルに説明する。それを聞いたジルは、シモーヌとフランシスの顔を見比べてから、「商売的下心か」と呟いた。


「何? 次期宰相としての血が騒いだの? 商行為は然るべき手続きを踏めって?」


 ベルナールがそう茶化して、頭一つ低いジルの肩に肘を乗せた。


「そうそう、皆さんにもこれを」 


 何故か不穏になった空気を壊すように、シモーヌは鞄からジャムを取り出して、クリストフ以外の三人にも配った。


「うちで作っているジャムです。王都にはないものなので、よかったら召し上がって下さい」


 珍しそうにジャムの瓶を観察する三人の後ろから、クリストフが不満そうに言った。


「私にはくれないのかな?」


 シモーヌは慌ててクリストフに言った。


「殿下のお口に入るものですので慎重に、と父が……申し訳ございません」


 謝るシモーヌにクリストフは意外なことを言った。


「大丈夫だよ。私にも一つくれないかな? 毒味ならそこの三人が終えているみたいだし」


 クリストフがフランシスたちを見ながら言う。そう言われて渡さない訳にはいかない。シモーヌはクリストフにも一瓶渡してから、ジルに話し掛けた。


「実は、ジル様にはもう一つ……」


 イネスに言われていた追加のジャムを渡すと、ジルは眼鏡の奥の目を大きく見開いた。


「昔、クリストフ殿下のお茶会でジル様に助けていただいたと母に聞きました。すっかり忘れてしまっていて……。その時、宰相様にもお世話になったようなので、これはお礼です」


 そこまで言って、シモーヌはジャムの瓶をジルに押しつけた。ジャムを受け取ったジルは、固まってしまい動かない。


「やっぱりそうだ! あの時の泣いていた女の子、シモーヌ嬢だったんだね」


 ベルナールが思い出したように大きな声で言った。あの時? とジャンが首を傾げる。


「昔、クリストフの婚約者選定のお茶会があったんだ。八歳の時かな? 女の子とお茶するなら、僕も参加させろって乱入したことがあって」


 ベルナールが言うと、クリストフも懐かしそうに笑った。


「僕はすぐに近衛に捕まって荷物のように担がれてしまってさ。離せ、女の子とお茶を飲むんだって暴れる僕のすぐ横を、泣いている女の子の手を引っ張ってジルが走り抜けたんだ」


 ジルはまだ固まったまま動かない。シモーヌはあの場にベルナールもいたことに驚いた。


「あの時、シモーヌ嬢が泣き止まなかったら、私は陛下と王妃に叱られていただろうね。国政を担う者が女の子の一人も笑顔にできないでどうするって。ジルがとっさに図書室に連れて行ってくれて、シモーヌ嬢も本に興味を持ち泣き止んでくれたから、私は叱られずに済んだよ」


 それを聞いてシモーヌは、恥ずかしさのあまりに消えてしまいたくなった。幼かったとはいえ、自分はなんてわがままだったのだろうと。


「八歳なら仕方がないんじゃないの? 大変だな、貴族」


 自分も貴族なのに、ジャンが他人事のように言う。


「八歳の時は、いかに折れない棒を見つけるかに無心だった」


「俺はでかい石だったな」


 ビクターとジョルジュは八歳の頃を思い出したようだ。


「あの時、助けてくれた男の子がジル様とは気づかなくて……お礼が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました」


 シモーヌが小さく言うと、ジルはそっぽを向いてしまった。怒らせてしまっただろうか、と不安になるシモーヌに、ジルがそっぽを向いたまま、


「ジャムは今晩、父と一緒に頂きます」


と言い、教室を出て行ってしまった。


「何だ、アレ。ジャムがいらないなら、俺が食うぞ」


 出て行ったジルに呆れてしまったジョルジュの肩を、ベルナールがポンポンと叩く。

 何となく緩んだ場の空気に、クリストフは苦い笑顔を浮かべた。


「クリストフ殿下。レニー様はご一緒ではないのですか? レニー様にもジャムをお渡ししたくて」


 そういえば、いつも一緒にいるはずのレニーの姿が見えない。


「中庭が存外暑くてね。レニーはアデル嬢と一緒に涼みに行ったよ」


 どうやらレニーはアデルと共に、女子専用の休憩室に行っているらしい。一学期の終わりに作ったミニ図書室の話もしたい。昼休みはまだ少し残っているので、シモーヌは休憩室に行くことにした。



「あら、シモーヌさん。帰省は楽しかったですか?」


 休憩室は教室ほどの大きさで、数組のソファーセットがある。レニーは一番奥のソファーに一人で座っていた。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ここから、うっすい恋愛パートがちょこちょこ入ってきます。

明日は21時頃に投稿します。

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