『鈍感少女』
朝。
私は今日もあの人が座る教室をのぞく。
騒がしい教室の中、一人机に座るあの人を見る。
本のタイトルは、見えなかった。
でも、すごく楽しそうな顔をして、幸せそうに、読んでいた。
それを見て私も幸せになる。
それだけで幸せになれる。
自分、虚しいなぁーって思うけど、でも良いんだ。これで。
所詮片想いだし。私にあの人は高嶺の花すぎる。
そして私は、隣の、自分のクラスに入り、席に座る。
数秒足らずでチャイムが鳴った。
危ない。今日も遅刻する所だった。
慌ただしくクラスメイトが席に座り、朝読書の時間。
私の学校では登校してから朝の会までの10分間、読書の時間がある。
今日読もうと思うのは、『片想いの切なさ』という、ちょっとマイナーな本。
私はしおりのページをめくった。
その時、隣の席の男子がコソコソと私に話しかけてきやがる。
「なぁっ。お前今日もアイツのコトちら見しただろ」
「そういうのストーカーって言うんだぜ」
「お前さ、絶対生徒手帳にアイツの写真挟んでるだろ。キッモ。ストーカー?」
そして私はその全てを完全に無視し、本に没頭する。
アイツとは、もちろん、私の片想いの相手。
「アイツもな、所詮お前なんて数多くいる自分のストーカーの一人だってしか思ってないからさぁーぁ。諦めろし!?」
あぁ、もう!うるさい!黙れ黙れ黙れ!
本気で、本気で、本気で‥‥‥‥ムカつく!!!
特に最後のひと言!!!
私はストーカーじゃないぃぃいいいい!
あの人が好きなだけ。大好きなだけ!
好きで何が悪いですか?
別に付き合いたいとか、そんなコト思ってないし。
「諦めろってなによ。最初からなにも願ってないし。付き合いたいとか思ったことないから。ストーカーとか言わないでくれる?めっちゃムカつくんだけど。」
「‥‥‥‥‥‥あぁー。ごめん。言い過ぎた。」
あっさりと謝られた。その素直さに少し驚き、怒りが沈んでゆく。
そして私も少し素直になってみる。
「‥‥‥でも、あんたが言ったことが本当だったら、少し、悲しいかも。」
少しじゃない。めちゃくちゃ悲しい。
「それって、付き合いたいって思ってるってことなんじゃないの?」
「‥‥‥‥‥‥かもね。」
「告れば?」
「‥‥‥無理。絶対、私、嫌われてるから。」
「‥‥‥‥‥‥お前のこと嫌いなヤツなんかいんの?」
「知らない。」
「俺は、お前に告られたら喜ばないやつなんていないと思うよ?」
「‥‥‥そんなことないよ。」
「少なくとも俺は喜ぶけどな。」
「ありがと。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
「ん?」
「‥‥‥あのさ、お願いなんだけど。」
「なに?」
「もしも‥‥もしもお前が告白して、フられたら、もしも、だからな。もしも‥‥‥そうなったら‥‥‥俺が‥‥‥‥お前の好きな人になる確率はどれくらいある?」
「‥‥‥‥‥‥2%くらいかなwww‥‥‥‥なんでそんなこと聞くの?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥だよな。うん。お前フられたくらいじゃへこたれるわけないよな。」
「当たり前じゃない。」
「‥‥‥一途だもんな‥‥‥。」
「うん。」
「でもな、俺、一応言っちゃうけどぶっちゃけ実はお前のこと好k‥‥‥」
キーンコーンカーン
何かを言いかけた声はチャイムにより私の耳には届かなかった。
「えぇっ?なに?聞こえなかった!」
「いや、もう、いいや。」