ラブソングを君にー1分で読める1分小説ー
「これ、聴いてくれないか」
時は1980年代。新一は、明美にあるものを手渡した。
それは、カセットテープだった。
「これ何?」
明美はそう訊いたが、内心ではその中身が何か気づいていた。新一の顔がまっ赤になっていたからだ。
テープの中身は、ラブソング。
今は空前のバンドブームで、年頃の男の子はみんなバンドをしていた。そして好きな女の子ができると、自作の曲をふきこんで渡すのだ。
友達からそんな話を聞いていたが、明美自身はこれが初体験だった。
「じゃあ後で感想を聞かせて」
新一は明美と目を合わせることなく、そそくさと立ち去った。
明美はいそいそと部屋に戻ると、デッキにカセットを差し込んだ。一体どんなラブソングなんだろう? 新一くんって歌上手いのかな?
ワクワクとドキドキが入り混じった状態で、再生ボタンを押した。
おもむろに新一の声が鳴り響いた。
「えー毎度バカバカしい話を一席、お付き合い願いたいと思います。ご隠居ちょっと聞いてくだせえ、なんだいハチ、やぶからぼうに……」
明美がぼそりとつぶやいた。
「落語かあ……」