episode6 ノート
犬飼くん達と別れた私は、汲ちゃんがいる場所へ向かった。
「汲ちゃぁぁぁん!」
「終わったのか?」
「うん!弱かったからすぐ終わったよ!」
「そうか」
「それより早く行こ?お腹空いた!」
後ろから急に抱きついたにもかかわらずよろけずに受け止めてくれた汲ちゃんに感謝しながら道を歩く。
「じゃじゃーん!着いたよ!」
「ここがか?」
程なくして、目的地へつくと腕を掲げアピールするかのように説明をした。
「ここは、王蘭ってお店でめちゃくちゃ美味しいって噂なの!前から来てみたかったからこの期に食べてみよかっなって思って!」
「なるほどな、早速店入るか」
「うん!」
店内は、黒でまとめられて高級感が漂っており一つ一つ席がちょっとした個室になっている。
店員に案内された席へつくと幸はいい雰囲気のお店だねと汲に笑いかけて言った。
「何たべるか」
「うーん、悩むからこのオススメセットにする」
「まぁ、無難だわな」
そう言って汲は、店員を呼び注文しをした。
「そういえば」
「うん?」
「最近、穢の出現率が上がってるそうだな」
「あぁ〜、そうだね去年より倍出てるかも」
「何か対策してるのか?」
「う〜ん、前に会議でもその話が出たんだけど何が原因なのか定かじゃないからちゃんとした対策は、できてないんだよねぇ」
「一時的なものじゃ無かったら仕事増えそうだなぁ…」
「アハハ、確かに増えそうだねぇ」
汲は、ジェットのメンテナンスを主に担当しているためジェットを使う回数が増えるごとにメンテナンスをするのが近づくため穢の出現率が上がるほどに汲の仕事量も上がるということになる。
「まぁ、さっきもおよそB級の穢が出たしね、去年とは何が違うってことは確かだよ」
「まさかさっきの穢B級だったのか!?」
「うん、でもスライムだったから比較的簡単に倒せたけどね」
「いや、スライムって硯がどこにあるか分からないから難しかったはずだけど…」
「えぇーでもスライムって額か身体の真ん中にあることが多いんだよ?」
「それでも見えない物に当てるのは難しいだろ」
「えぇー?そうかなぁ…」
腑に落ちないといった返事をしていると頼んでいた物が届き幸と汲は食べることに専念した。
◇◇◇
「あぁ、美味しかった〜!!」
「確かに美味かったな…」
肉の焼きすぎで煙が大量発生し目が痛いなどのちょっとしたハプニングは色々起こったが、最終的には満足し食べ終えたのだった。
「なぁ」
「うん?なにー?」
「さっき言い忘れてたけどB級の穢が出たって言ったよな」
「…うん」
「普通こんな場所に出るのは中々無いことだし、しかも最近はそればっかだと耳にしてる」
「そうだね〜最近出る穢のランクは高いかも」
「穢のランクが高いほど当てる狩人のランクも高くなる」
「何〜?私を心配してるの?」
「あぁ、そうだよ」
揶揄った物言いをした幸は素直に答えた汲の言葉に目を見開いた。
「…大丈夫だよ」
「でも」
「私は英雄だよ?」
「・・・・・」
「《《あの事件》》の唯一の生き残り。だからその辺の雑魚穢に負けないって!」
「そうか…お前が言うならそんなんだな」
「うん!この国の英雄様だよ!」
少し安心したようにでも未だ不安が残るような笑顔を汲は浮かべたが幸は気付かないふりをした。その時よく聞く着信音の音が鳴り響いた。
「すまん。もしもし、どうした?・・・・・あ?はぁ──。すまない幸、急遽戻らなければならなくなった。」
「どうしたの」
「どこぞのバカが馬鹿やった」
「ハハッ大変だね」
「あぁ、いつもいつも問題を起こしやがって」
「じゃあそろそろ会計して店でよっか」
「そうしよう」
会計を済ませ店を出たところで幸と汲は別れた。もちろん言った通り汲の奢りで。
「それじゃあ私は行かなければならないからここで失礼する」
「うん、頑張ってね〜バイバイ汲ちゃん」
店の前で別れの挨拶をした幸は駅の方向へ汲は先ほどいた場所へ向かった。
◇◇◇
幸は扉を開けると殺風景な部屋が目に入る。
ここは、狩人連合組織が幸に与えた部屋であり今はここで生活している。
部屋にあるのは机と椅子、ソファにテレビ…
ミニマリストもびっくりする程最低限の物しか置かれていない別室も同様だろう。
幸は机に置かれている1冊のノートを手に取りパラパラとめくる。
開いたページには、昨日の日付が書かれておりまるで日記のように記載されている。
書かれていたことは、合ったかもしれない未来。だけどもう存在しない未来。
『四月八日火曜日
はびせかが始まる日!主人公は狩人育成機関学校に入学してヒロインのうち1人と出会う。彼女は優秀な兄に劣等感を抱いてる少女。だけどそれも後に主人公によって解決する!
すると、主人公に声をかける人が現れる!
彼の名前は、月宮浪牙!ちょースーパーイケメン!なぜ声をかけたのかは主人公が持つある能力が関係していてそれは・・・・・』
全てを読む前に幸は、ノートを閉じた。
意気揚々と書いていたある少女の姿を思い出した幸は懐かしい気持ちに椅子の背もたれに寄りかかり目を閉じるのであった。
『■■■──。』
ある少女の名を心の内で呟きながら──。