episode4 親の心子知らず
◇◇◇
何か道具を使った女性が保護メガネを取り口を開いた。
「そういえば幸。聞いたぞ。お前昨日行ったんだってな。」
「う〜ん?」
「学校だよ。一年の時はあんなに行かなかったのに」
「あぁ学校ね!本当は今日いく予定だったんだけど〜メンテナスだったから昨日行ったのー」
「それにしても入学式に突撃はねぇだろう。」
「汲ちゃん冷たい〜」
「正論だ」
ここはある地下室。主に狩人が使うジェットのメンテナスを行うための作業場である。
そしてメンテナスをしながら幸と喋っているのは、祈咲汲。
赤茶の髪を雑に束ねて白衣を来ており幸にとって第2の親のような存在だ。
「元よりお前は量産者で他の奴らよりジェットの数が多いんだからもっと余裕を持って来いよ。」
「えぇ〜だってメンテナス中は、ここに居なくちゃいけないもん〜」
「当たり前だ。何かあった時のために同伴しなくちゃ行けないからな」
マスプロとは、本来ジェットを扱えるのは1人の最大2つが限界なのにも関わらず3つ以上扱える人のことを指す。
「ねぇ〜あとどれぐらいで終わりそ?」
「後2つだけだから1時間ぐらいで終わる」
「長いよ〜」
「しょうがねぇだろ。お前は史上最大で8つジェットが扱えるんだからメンテナスも長くなる。しっかし8つジェットが使えるなんで人間業じゃねぇよ。」
「...まぁそんなんだけどさぁ。…時間かかるのは。」
「メンテナス終わったらなんか美味しい食いもんでも奢ってやるから我慢しろ」
「えっ本当?汲ちゃん!分かった我慢する!あとからなしって言うのはダメだからね!」
「本当本当まじまじ」
「え〜何食べよっかな〜」
汲は、上機嫌になった幸を横目で見ながら目の前にあるジェットへ集中する。
◇◇◇
「よし、これで終わったぞ。」
そう言って汲は、幸に8つのジェットを渡した。
それを1つずつ指でつまみ観察するように見た幸だが全部見終わると真剣な顔から一転笑顔で汲を褒めたたえた。
「さすが汲ちゃん!今までながら見事な腕前!」
「そりゃあどうも。ご飯決まったのか?」
「うん!中華もいいと思ったんだけどお肉が食べたくなってきたから焼肉行こ!」
「あぁ、分かった。」
そう言いながら汲は、羽織っていた白衣を脱ぎメンテナスで使った道具を片付けた。
「よし、行くか。」
「うん!」
汲と幸は扉をくぐり目的地へ向かう。
◇◇◇
side 祈咲汲
「場所はどこにあるんだ?」
「こっから約15分!」
「近いな」
「近いところを選んだからねぇ〜」
会話しながら歩き進める幸と汲。
周りには通行人がいて何の変哲もないが今となっては貴重な平和な光景。
その光景をじっと見つめる幸に汲は言う。
「何見てんだ?」
「…平和だなぁって思って。」
「確かに今じゃ何起きても不思議じゃないからな。」
「うん、そうだね。穢は、ところ構わず出現して平和を人を食い荒らす。」
「・・・」
前を向いてる幸の表情は、汲には見えないが声が普段より低くなっているように聞こえるのは汲の気のせいであろうか。
「ま!そのために私たち狩人は居るんだけどね!」
先程と、うって変わりこちらを振り返り笑顔でそう言った。
「・・ッ「キャ────・・・」!」
すると何か言おうとした汲の言葉を遮るように悲鳴が聞こえる。
「ありりゃ、噂をすればと言うやつかな」
「…焼肉は、おあずけだな」
「そうだね〜あ!メンテナスしたばっかだしせっかくだから見ててよ!」
「行くのか?」
「うん、行くよ。ここは東京。関東で起こったことは代表である私が責任待たなくちゃ」
そう言う幸の背中では、到底17歳で背負わない見えない何かを背負っていた。
(──皮肉なものだ。たった17歳が国を救った英雄なんて。)
17歳と言えば高校生活を満喫して友達と遊んだり青春や恋をして楽しい時のはずだ。
だが幸はその時間を全て穢と国の平和のために捧げている。
汲はそれに吐き気がする。
それを黙認し英雄が居ないと平和を守れない国にもただ見てるしかできない自分にも。
言葉をかけることしか自分には出来ない。
「気をつけてな。」
「誰に行ってるの?この私だよ?」
そう言って幸は元凶の元へ向かっていった。
周りの人が汲の横を走り抜け逃げていく中でただじっと立ち止まり幸が向かっていった方向を眺めている。