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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第1章 異形の地
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1.9.異形たちとの交流


「それでですね! あの先には祠がありまして……」

「森には怪蟲と呼ばれる虫がおりまして、それらを操ることができ……」

「憎き妖共は我らをいつもいつも……」


 私はぱくぱくとコンチュウを食べながら、異形たちの話を一人一人聞いていた。

 いろんな話を聞くことでこの世界についての知識が増えていく。

 話をしてくれている異形の見た目は不気味ではあるが、性格は非常にいい。

 まだ慣れはしないが、適切な距離を取って話をしてくれれば私も驚かなくなった。


 慣れだろうか?

 少々奇妙な感覚ではあるが、既にたらふく蟲を食っている。

 美味いのだから仕方がない。

 なんだこの高級食材は。


「ええーとつまり、怪蟲ってのは異形の味方なんだ」

「そうなのです!」


 わしゃわしゃと無数の脚を動かしながら肯定する二体の蜘蛛に近い異形に、再確認を取る。

 口が大きく、紫色をした毒々しい異形だ。

 丸っこい体に口だけがぺっと張り付けられているので、無数の脚さえ気にしなければなかなか可愛げがある。


 彼らから聞いた話は怪蟲について。

 虫同士なので、怪蟲について何か知り得ることがあるようだった。

 ツギメから一度か二度ほど怪蟲という単語を聞いたが、それだけだったのでここで詳しく聞くことができたのは良かった。

 簡潔に怪蟲について説明するならば、異形のみが使役できる特別な蟲との事。


 大きさはまちまちだが、怪蟲と呼ばれるのでその大きさは尋常ではないらしい。

 基本的には地中を移動するらしく、土竜のように穴を掘るようだ。

 主にムカデが戦闘員として使用されるが、びっくりするほど弱いのだとか。


「弱いってどれくらい?」

「我々でも倒せる程に……。小突けば死にます」

「弱いってもんじゃねぇな!」


 図体だけデカくなって小突けば死ぬ程度の生命力しかないというのは、一体どういう進化を遂げればそうなるのだろうか。

 戦力にすらならない。

 これも彼ら異形の総評として加味されているのだろうか?


「はぁ~~、話は聞いてみたけど、脱出に繋がる良い手立てはなさそうだなぁ……」

「あ、ああ……申し訳ありません人間様……」

「お役に立てなかった……」

「いや、でも良い話は聞けたよ。ありがとう。次は地理について知りたいな。広い範囲を知ってる異形っているの?」

「「ジャハツ様ですね」」

「うげ」


 やはりあの異形なのか、と少し肩を落とした。

 今まで粘液質の異形だったり、蟲だったり、鳥だったりと様々な異形と話をしたが、どうにもあの蛇の異形は苦手だ。

 最初の印象が最悪過ぎた。

 ただそれだけなのだが、なんとなく対面して会話をするのは憚られる。


 とはいえ、あれだけ年老いているのだ。

 その見た目に合った知識は持っているはずである。


 すると、蜘蛛の異形の内の一体が、『あっ』と声を漏らした。


クロボソ(くろぼそ)さんって、確か帰って来てたよね?」

「そういえば……! 人間様。旅する異形、クロボソという者がおるのです。その方であれば地形などよく知っているかと……!」

「あ、じゃあその異形と会いたいな」

「しばしお待ちを!」


 そう言って、二体の異形はそそくさとこの場を後にしてしまった。

 私はワタマリを手に取り、膝に乗せる。


 話をしてみれば、意外と普通な者たちだ。

 見た目があれなだけで、中身はしっかりとしている。

 さすがにまだ恐ろしいという印象はあるが、コンチュウを食べてからはあんまり気にならなくなった。


「良い傾向なのかな……? まぁ、いいか。ね~」

「キュ?」


 このワタマリだけは本気で愛でることができる。

 もふもふと触り心地の良い毛並みを堪能していると、誰かがフヨフヨとこちらに向かって来た。


 浮いている……?


 見てみれば、頭に大きな笠を被った異形だった。

 頭部は球体であるらしく、笠がずれないようにしっかりと紐でくくっている。

 だが目や鼻、耳などは見受けられず、見えるのは真っ白な口元だけ。

 口はVの字となっているので、笑っているということが分かった。


 腕は小枝のように細く、片手で力を入れただけでも本当に折れてしまいそうだ。

 指先に至っては爪楊枝の先端ほどしかない。

 握手などもできそうにないほどに細く、脆そうである。


 体も腕に合わせて細いのか、着ている服は随分大きく、ウエストが砂時計のくびれほどしかない。

 帯を何度も巻いて、乱雑に片蝶結びをしている。

 下は何も履いておらず、腰から下は幽霊の脚のようになっていた。

 先端に向かう程細くなり、ひょろひょろと揺れている。


「……亡霊?」

「!? あっしゃまだ死んでおりゃんせんぜ!?」

「うわ、癖強そうなのが来たな」

「悪ぅございやしたね!?」


 あ、この異形、面白い奴だ。

 明るそうな性格をしている異形もいるのだな~、と思いながらクロボソと呼ばれた異形を招き入れる。


 彼はふわりと浮いて、静かに目の前に座り込む。


「ありゃ、さっきの二体は?」

空蜘蛛(からぐも)兄弟のことでやすかね? あいつらはいっぺんに人間様の前に異形がおったら驚かれっだらってことで、コンチュウを集めに行きやした」

「あ、そうなの。まぁいいや! よし、クロボソ君」

「なんでございやしょう」


 名前を呼ばれて相当嬉しかったのか、背筋をビシッと延ばし、Vの字になった口角が更に上がる。

 ちょっと怖い。


 しかし彼は旅をしてきた異形と聞く。

 もしかしたら、誰も知らない秘密の通路などがあるかもしれないのだ。

 僅かでも、人間のいる場所へ戻る場所を模索する。


「地形のことを詳しく教えて欲しいんだ。人間のいる所に行きたいからね」

「あ、あぁ~……。そ、そういうことでやすかぁ……」

「そこまで難色を示さなくても」

「あいや! 申し訳なし! ですが、ううん……」


 クロボソは細い指で頬を掻く。

 笑顔だった白い口元が一気に降下し、への字になった。


 しばらく考え込んでいたが、やげて小さく息を吐いてこちらを向く。

 重々しそうに口を開いた。


「あっしが出会ってきた人間様にも、同じことを言われやした……」

「ええと、つまり……」

「この異形の地は、あっしの庭でさ。なんで妖の領土の境界線、誰も来ない通路、秘境なんかも全部しっとりやす。でやすが……」


 クロボソは申し訳なさそうにしながら、顔を笠で隠した。


「あっしの知識をすべて使っても、人間様を人間の里へ送ることは終ぞかないやせんでした……」


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