2.6.二口決戦
落水が大きな声で掛け声を上げると、それに続いて他の異形たちが一斉に応える。
各々竹槍や木槍を持って突き進み、最も近くにいる二口へと槍を突き出して仕留めていく。
奇襲は完璧に成功し、三人で一体の二口を仕留めるという作戦も相まって一気に押し込むことができていた。
二口の持つ武器は鉄を使用したもので殺傷能力は高く、耐久性にも優れている。
反撃した二口に持っていた槍を斬り飛ばされることもあったが、三対一で勝てる二口はいなかった。
今までの恨みを込め、異端村に残っている仲間の分の怒りを込めて槍を突き出す。
折れたって斬られたってお構いなしだ。
持てる渾身の力を持って敵を討つ。
鮮血が地面にばら撒かれた。
山頂で起こっている騒ぎを聞きつけ、担当場所を離れてこちらに向かってきている二口が増えてきた。
まだ時間はかかるようだが、一刻も早く各個撃破していかなければならない。
「行くぞぉ!!」
「ロウ!!」
「がぁっ!?」
旅籠も気合を入れて声を上げ、味方を鼓舞する。
今回の作戦は大成功だ。
ワタマリで気配を消しながら、ジャハツが教えてくれた隠し通路へと進んで山頂付近に出る。
全員が出たところでワタマリを離し、全軍が一気に本陣へと突き進む。
単純な作戦ではあるが、確実に気付かれることのないワタマリを使った作戦は見事に刺さった。
こんなにうまくいっていいのか、と不安になるほどだったがここまで来たらあとは勢いだけだ。
この山頂を占拠することができれば、二口の残党は実質城攻めをする形となる。
なのでこちらは防衛するだけだ。
「こんの……!」
大口が怒りを顔面に張り付かせている。
その姿を見ると、さすがに旅籠は一瞬だけ凍り付いた。
この姿こそ、本当の妖なのだろう。
鬼のように歪んだ顔がこちらの恐怖心を掻き立てて来る。
だが今更怯んでいられるものか。
恐怖心を空気と一緒に飲み込み、こちらに向かってきていた二口の攻撃をかわす。
すぐに他の異形たちが加勢し、その二口を簡単に仕留めた。
「ぶっ殺す!!!!」
斬馬刀のような巨大な大剣がふわりと持ちあがる。
肩に担がれたそれは一気にこちらに振り下ろされた。
金属が打ち合う甲高い音が響く。
ビィィンと長く続く音は耳に残るようで気持ち悪い。
砂煙が上がるほどの強烈な一撃ではあったが、誰も怪我をしていなかった。
視界が晴れると、大口の大剣を日本刀で難なく受け止めている落水の姿が目に入る。
大口が目を見開いて驚愕していた。
「落水様!」
「こいつは俺の獲物だ。てめぇらは雑魚を仕留めろ」
「しょ、承知! 旅籠様行きましょう!!」
「分かった……!」
後ろからさらに流れ込んでくる異形たちに紛れて、旅籠たちはこちらに戻ってくる敵を仕留めに向かった。
混乱の中にある二口を今仕留めなければ。
冷静に対処される間に、できるだけ多くの敵を。
そう思って旅籠は周囲を見渡す。
戦況を把握するのは至難の業だが、一部だけ押し返されている箇所がある。
明らかに異形たちの勢いが削がれていたのだ。
「あっちはどうした!?」
「二口の老兵です…!」
「老兵……。戦場で最も当たり合いたくないな……」
意を決して、そちらの方へと駆け出す。
旅籠の動きに合わせて数十名の異形がこちらについてきてくれた。
現場に駆けつけてみると、老齢の二口が直刀を片手で器用に操り、踊りながら異形たちを斬っていた。
周囲には既に四名の異形の死体がある。
今、もう一体死体が作られた。
「皆の者、ここに集え!」
老兵がそう叫ぶと、近くにいた二口四名が真っ先に近づいて構えを取った。
固められてしまったらしい。
強い兵士が一人居ると崩すために消耗してしまう。
これは厄介だな、と思いながらも鼻で笑った。
意外にも余裕な態度を見せつけられた老兵が旅籠を睨む。
「……渡り者を味方につけたか……! 通りで厄介なわけだ」
手首を回して二度血を振るったあと、こちらに切先を向ける。
彼は誰を最初に仕留めるべきが決めたようだ。
旅籠に視線を突き刺している。
「……その刀いいなぁ」
旅籠はそう口にしながら、弩を手に持つ。
それに倣って他の異形も弩を手に持った。
初めて見る武器にきょとんとした顔をした二口だったが、矢尻がきらりと光ったのを見てそれが飛び道具だと一瞬で見抜く。
だが気付いた時には遅かった。
「ロー!」
矢が空気を切る音が鳴る。
早い速度で到達した矢は五名の二口の体に突き刺さっていく。
練習の甲斐もあり、この距離であれば外すことはない様だ。
老兵だけは致命傷を何とか避けることに成功したが、集まった四名の二口は何もできずにその場に倒れた。
だが老兵も膝と脇腹、肩に矢を受けている。
片膝をつき、直刀を地面に突き刺して杖にしている状態だ。
「カラクリ弓……!?」
突き刺さった矢を無理やり抜く。
怪蟲の殻で作った矢尻は鋭利で鋭くなっていた。
「これ程の物を……異形風情が……!」
再び装填された矢が、老兵を射貫く。
流石に遠距離武器には手も足も出ないらしいことを知って安堵する。
「装填急げ! 次の二口が来る前に!」
「ロウ!」
異形たちは二口の死骸をまさぐって新たな武器を手に取る。
竹や木などよりこちらの方が断然いい。
すると一匹の布だけでできた異形が、こちらに老兵が使っていた直刀を差し出してきた。
鞘なども回収してくれたらしい。
羨ましがったことを覚えていたのだろう。
だが死骸から手に入れた武器というのは、なんだか気分が悪い。
とはいえそんなことを言っている状況ではない。
旅籠はすぐにそれを手に取って、礼を言う。
布の異形はペコリと頭を下げ、弩の装填を急いだ。
「ジャハツ! 指揮を頼む!」
「承知しましたじゃ」
戦える力のないジャハツは、知識面での協力を頼んでいる。
どれ程の力があるかは分からないが、彼女は自らやらせてほしいと名乗りを上げたのだ。
ここはひとつ、信じてみることにする。
「ジャハツの指示に従って動いてね! さぁこっちに来る二口を仕留めるぞ!」
『『ロー!』』




