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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第一章 異形の地
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1.21.武器制作


 木樹のいる場所に向かっている道中、落水にいくつか教えてもらった。

 今回の戦いに必要な知識だけではあるが、最初から全部教えてもらっても覚えられるわけはないし、そんな時間もないので丁度いい。


 教えてもらったこととしては、二口の『大声』の能力。

 どれだけの情報を一度の『大声』で伝達できるのか聞いたのだが……あんな一瞬でほぼ全部の情報を伝達できるってなんなんですか。

 ずるですよ。


 なので私たちがやっていることは、完全に露見されてしまったと思っていい。

 つまり各個撃破はもう不可能だろう。

 クロボソが裏切者である、とバレた時点でこの作戦はもう使えない。


 それと、髪の毛による攻撃はあまり気にしなくてもいい様だ。

 そこまで強い力で絡みついてくるわけではないとのこと。

 若干警戒していたので、これが払拭されるのはありがたい。


 あと落水について少しだけ。

 彼は水の異形人であるらしく、体全身が水でできているのだとか。

 だからこんなにびしょ濡れなのね。

 まぁこれだけしか教えてくれなかったんだけど。


 あとなんか褒められた。

 木樹を使って武器になるものを作ってもらったことで。

 どうやら彼らは一定の条件がなければそれに応じてはくれないらしい。

 あの時家屋の修理に木材を伐採しようとしたが断られてしまったのには、見返りがないからという理由だったようだ。


 そんなん知らんやん。


 ではなぜ今回は協力してくれたのか、というと……。

 彼らも妖から蔑まれている存在。

 少なからず妖に恨みはあり、それを何とかしようと言うのであれば、手伝わないのは野暮だということ。


 そんなん知らんやん。


 因みにツギメとクロボソなのだが……同行するのを落水が断った。

 なんでや。


「二口の総大将は大口という名前の二口だ。人間を幾つか喰らっている為、他の二口よりも強力な存在。二口五十匹分の力があると考慮しろ」

「強すぎません……?」


 落水は首を横に振る。


「雑魚だ」

「異形人強すぎません……? てか勝てる自信あるんですか?」

「俺が勝てぬとでも?」

「いや、落水さんがどれだけ強いか私知らないし……」


 木樹がいる森に近づく頃、落水は二口の総大将について少し説明してくれた。

 大きな口を開けて襲ってきた二口五十匹分の力があるのなら、異形たちでは勝つことができないのではないだろうか。


 そのための武器制作なのではあるが。


 そう、普通に考えて異形は確かに弱い。

 唯一の強みでありそうな怪蟲を使役する術も、怪蟲がそもそも弱すぎるのでぶつかり合いには使えない。

 ぶっちゃけて言ってしまえば“強みすら弱い”のが異形である。


 そんな彼らと共に妖に立ち向かって勝利し、人間のいる領地まで進もうというのだから、単純な策で勝てるわけがない。


 だけど私は現代日本人だったのでね!

 人並みには兵器の知識だってあるし、考えることは嫌いではない。

 そこで辿り着いたのが、武器の優位による勝利……。

 今はこれしかないと思う。


 ようやく木樹が棲む森に辿り着いた。

 近づくや否や、大木の陰からねじり曲がった根っこの異形、木樹が姿を現す。

 なにやらそわそわとしているようだ。


「あれ、なんか前に来た時と様子が違う」

「成果を聞きたいのだろう。教えてやれ」

「……なるほど?」


 喋らない異形でも、そういうことには興味があるらしい。

 とりあえず作ってもらった武器のお陰で、二口を仕留めることができたと報告しておく。

 するとギシギシと音が鳴る。

 捻じれた根っこが更に捻じれるような音。

 これが喜びを表現しているらしい。


 分かんねぇって。


「この調子なら問題ないだろう。木樹。旅籠がまた作って欲しい代物があるそうだ」

「ギシギシ」

「『喜んで』だそうだ」

「話せるんですか……?」

「……言っていることがなんとなく分かる程度だ」


 それだけでも十分凄い事だと思う。

 異形人は異形の中で強い立場にあるだけではなく、交流のかなめとしても重宝されそうな存在だ。

 何故今までここに居なかったのか少し気になるところだが。


 兎にも角にも、木樹は指示を待っている。

 今回彼らに作ってもらいたい武器は“弩”。

 扱い方は簡単だが、作るのは少し難しいかもしれない。

 なにせ知っているだけで、作り方は知らないのだ。

 この辺は彼らができるようなやり方で、少しばかり改良していかなければならないだろう。


 とりあえず弩の絵を地面に描く。

 絵だけを見てもピンとこないようだったので、絵を見ながら説明する。


「小型の機械弓って言ったら分かるかな」

「ギ?」

「キカイとはなんだ」

「あ、そうか……。カラクリなら分かりますか?」

「ギィギィ」

「それなら俺も分かる。こいつらもなんとなく分かるらしい」

「お、じゃあその線で」


 説明の仕方に慣れるのは時間がかかりそうだ。

 そう思いながら、簡単に弩の構造を教えていく。


「ここが弓の部分。で、ここに台がある。常に弓を引いていられる状態を維持できて、それを解除すると矢が飛んで行く。矢を飛ばす方法は……ってもう作ったの!?」

「ギィギシ」


 木樹は説明を聞きながら、手の中で木材を自由自在に変えていき、少し不格好な形の弩のが作られていた。

 だが構造が少し違う。

 最も違う部分は引き金の部分。


 普通、引き金を引くと矢が飛ぶようになっているのだが、木樹の作った弩は引き金を“下に引き抜く”と飛ぶようになっていた。

 確かにこれでも弩としての機能は備わっている。

 だが若干、装填に時間がかかりそうだ。


 しかし、初めて作ったにしてはよく出来ている。

 弓の部分は竹を三重にして作られており、弦はねじり込まれたツタを使用していた。

 台も軽く、取り回しやすい。

 矢は竹となっているが……こればかりは少し殺傷能力を上げるために重量を増した方がいいだろう。


 木を加工できる木樹のように、石を加工できる異形はいないのだろうか?

 もしいるのであれば、これより先とても重宝されるはず。


 落水にそう聞いてみると、彼は渋い顔をした。


「え、何かあります……?」

「いるにはいる。だがここには居らん」

「他にも異形たちが棲む村があるってことでしたけど……」

「ああ。だが、この戦いに参戦はできぬ」


 そう前置きして、落水は他の異形の村について少し教えてくれた。

 異形たちはいくつかの村に分かれて存在しているようで、どれも妖の領域に存在している。

 これはツギメからも少し聞いた話だ。

 だが今から増援を求めに行くことは不可能だし、そもそも妖の領地を渡り歩かなければならないというリスクがある。


 二口相手に苦戦するようであれば、仲間を求めて他の妖に立ち向かうなど愚策、とのこと。

 厳しい言葉ではあったが、確かにそうだ。

 弱いままでは、他の仲間を助けに行く余裕など生まれはしないだろう。


 まずは目の前のことだ。

 作ってもらった弩を手にして、とりあえず試し撃ちをしてみる。


 ピシュ、という音が鳴ると、装填されていた竹の矢が真っすぐ飛んだ。

 だが途中で少し傾いたのか、着弾した大木にはカンッと弾かれてしまう。


 精度は高いが威力がない。

 これではまだ実用化はできなさそうだ。

 とはいえ弩に問題はない。

 改良すべきは矢だけである。


「よし! じゃあ木樹はこれを百個作ってね!」

「ギ!」

「二百でもいい。装填に時間がかかるのであれば、事前に用意しておけば二度撃てる」

「余裕があったらよろしく!」

「ギギ!」


 てなると、あとは矢だな!

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