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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十三章 完全な敵対
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13.11.Side-雪野-報告


 雪野が鬼の里に戻り、安否を心配していた者たちが落ち着いたところで、一つの屋敷に呼び出された。

 そうなるだろうな、とは思っていたので驚きはしない。

 向こうに行っていた時間はそこそこ長かったので、その間に情報が共有されていたのだ。


 呼び出された屋敷に向かい、案内にしたがって通された場所には、颪が全員座っていた。

 それに加えて鬼の里長であるドウゴもいるようだ。

 横には御代がいて、どうしたことか早瀬の姿は見えない。

 一礼してから敷居を跨げば、孫六に座るようすすめられた。


「無茶をしましたね」

「すいません……」


 ここに来る前に、雪野は津辻原から手当てをされていた。

 一部凍傷になりかけていた箇所があったり、指を切ったりしていたので、所々に包帯が目立つ。

 申し訳なさそうにしゅんとしていると、小さなため息が聞こえた。


「強き女子だ。萩間殿、そう責めるでないわ」

「……君は異形の頭……旅籠殿のご友人。なにかあれば、どうなるかわからないのです」

「……すいません。気を付けます」


 鍔雉が宥めるが、孫六は首を横に振った。

 確かに雪野に何かあれば、旅籠がどう出るか分かったものではない。

 これを再認識した雪野は、もう一度謝った。


「……ま、生きてんならいいじゃねぇか。んで、雪野ちゃんよお……。向こうで何があった」

(きた……!)


 やはり彼らが待っているのはこの話だ。

 とはいえ、あの場で起きたことを全て話す訳にはいかない。

 ここに来るまでにまとめていた内容を今一度思いだし、全員に説明する。


「……まず、継ぎ接ぎの異術を持つ継矢月芽という異形人とお話をしてきました」

「「……!?」」


 これに反応したのは二名で、古緑と鍔雉だ。

 二人は顔を見合わせるが、話の腰を折ってはならない、と口にしたい言葉を押し殺した。


「内容は、異形の目的……。次いで、これ以上の戦いを望まない、との事でした」

「何を馬鹿な……! あれだけ暴れまわっておいてよくも……! 俺らはまだ負けちゃいねえぞ……!」

「雪野ちゃん。その異形の目的って?」

「私の友人……。旅籠さんを富表神社に連れていき、元の世界に帰すことだそうです」

「なんですって……?」

「んだそりゃ……」


 捌菅は腕を組んで唸り、津辻原は眉を寄せながら下を向いて考え込む。

 異形の目的がそれだけであれば、条件さえ飲めば無益な戦いはこれ以上起きないだろう。

 しかし、それは無理だった。


「……雪野ちゃん。異形の行動理由がそれだとしても、代果は拒むと思うわ。禁忌を犯した人間を、神社に招くなどできるはずもない……」

「同感だぜ。それにこっちは城を落とされてる。これで通せば敗北を認めるようなもんだ。どうしたって頷けねえ」


 二人の意見は、雪野が予想した通りの反応だった。

 彼らの条件を飲むことはできないし、戦って多くの死者が出ているのだ。

 彼らからすれば、戦わずして敗けを認めることはできない。


 これには孫六、ドウゴも頷いた。

 戦いを退くようなことをすれば、多くの民を救うために立ち向かった仲間たちに申し訳がたたない。

 それに、こちらには戦えるようになった巫女がいる。

 彼女たちの力があれば、これまで以上に有利に戦うことができるはずだ。

 勝てる見込みがある以上、なおのこと退く訳にはいかなかった。


「父上はどのようにお考えですか?」


 孫六が古緑に向き直る。

 彼は未だになにか思案しているようだったが、ゆっくりと目を開いた。


「……我らとて戦は望まぬ。されど、戦う道しかない」


 隣にいた鍔雉もこれに頷く。

 やはりこうなってしまった。

 もっと早く異形たちの目的が分かっていれば、取れる手段も多かっただろう。

 旅籠を捕らえ、殺し続けたのが敵を作るきっかけとなった。

 これさえなければ、と古緑も心の中で悔しそうに呟く。


「てことだ。異形の思いどおりにはさせねえ。寧ろ城を取り返してやるわ」

「こればかりは捌菅の言う通りだ。仲間の死、無駄にはせんぞ」

「おお、久しぶりに意見があったな萩間!」

「次こそはあやつを仕留める」

「俺もそのつもりだ。んで、いつだ?」

「その前に……」


 二人の会話を、鍔雉が止めた。

 細い目からうっすら見える瞳を雪野に向け、包帯を見つめる。


「それだけではあるまい。対話のあと、何があった。雪野殿」

「……天狗と、戦いました」

「なに!?」


 捌菅が目を見張る。

 それは他の者も同様だったが、深く食らいついたのは御代だった。


「や、やっぱり雪野様を連れていき、そこで亡き者にするつもりだったのですね!?」

「いや違う違う! 月芽ちゃんは寧ろ、私のことを守ってくれたよ」

「い、異形が……守った……?」

「じゃなきゃ私、ここに帰ってこれなかっただろうし」

「あ……」


 雪野は月芽の異術でここに帰ってきた。

 御代の目の前で出てきたので、彼女が一番わかっているはずだ。

 とはいえ異形が人間を守ったという事実がどうしても信じられないらしい。


 だが雪野は本当に話し合いの場を設けられたので、そこに訪れただけ。

 異形はなにもしてこなかったし、天狗から守ってくれたことも事実。

 そうでなければ、雪野は生きたままここに帰ってくることはなかった。


 未だに疑いを抱いている面々だったが、雪野の説明でなんとかこれを飲み込んだ。

 だが……やはりと言うべきか、古緑は神妙な顔つきをしていた。


「……」

(……バレるかな……?)


 若干不安になったが、古緑はなにも言わなかった。

 これに安堵し、包帯を触りながらその時のことを話す。


「天狗は冷気を使って攻撃してきました。巫女の結界も全てを防ぐことができるというわけではないようです」

「守の御力は使わなかったのかしら?」

「使いましたが、効力が薄かったんです。その原因は私自身を結界で取り囲んでいることでした」

「守の御力にそんな弱点が!?」

「私も初めて知ったわ……」


 現役の巫女でも、このことは知らなかったようだ。

 これはおそらく巫女の数が少なく、戦闘経験がほぼないことと、力のある巫女はそれ以上に少ないからだろう。

 古い文献などを漁れば、この弱点について記されているかもしれない。

 だがそこに至ることもないほど、巫女の戦いは減ってしまった。


 力のある巫女は安全な場所で過ごしており、ほとんどと言っていいほど戦に同行はしない。

 危機が迫れば逃げるだけなのだ。

 そもそも、戦いがあったことすら知る由もないだろう。


 とはいえ、ここで守の御力の弱点が分かったのは朗報だった。

 守の御力と結界の同時発動は可能だが、決して巫女本人を結界で取り囲んではいけない。

 結界が邪魔をして守の御力を弱体化させてしまう、と雪野はしっかり二人に伝えた。


(……でも、やっぱり無理だったか……)


 雪野一人の力では、戦いを阻止することはできないようだ。

 分かっていたことではあるが、実際に無理だと聞いてしまうと自分の力不足のような気がしてならない。


 ……最初に手を出してしまったのは人間。

 異形と関わりを持った旅籠を殺し続けたことを、彼らは根に持っている。

 それだけ異形は旅籠のことを慕っていたのだ。

 これが落水の策だとしても、彼らのヘイトは人間へと向けられていた。


 異形の目的は至極単純だが、人間側はこれを良しとしない。

 それを許せば敗北を認めたことになる。

 加えて神聖な神社に異端な者が敷居を跨ぐのをひどく嫌うだろう。

 代果城にいる人間たちも、快くそれを引き受けることはしないはずだ。


 これに雪野は肩を竦める。

 好きにはさせん、と意気込む颪に、必ず守る、と決意する巫女。

 戦いを遠ざけるつもりだったが、結局は発破をかけてしまう形となった。

 あの三名には申し訳ないなと思いつつ、今度会ったときはしっかり話そう、と胸の内でつぶやく。


「……古緑よ」


 鍔雉が古緑に小さく呼びかける。

 古緑はこれに頷くと、雪野の方へ顔を向けた。


「ああ。雪野殿。継矢月芽と言ったな」

「え? ああ、はい」

「継矢落水の妹、継矢月芽。容姿はどのようであった?」

「幼い子供の姿でし……た……。ってああ!? そ、そっか!!」


 自分で口にして気付いたことがある。

 以前、古緑に落水のことを教えてもらった時のことだ。

 あれは数十年前の話であり、月芽が幼い女の子であるというのは不自然。

 つまり、月芽はあれからほとんど歳を取っていないということになる。


 異形人という存在が歳を取らないのであれば、落水も当時と同じ姿をしているはずだ。

 となれば異形鬼も同様なのではないだろうか。

 それに、旅籠もこのままでは長い時を生きることになる。


「いやダメ! 絶対ダメ!」

「異形人……。やはり一度、調べなおした方が良いな。津留」


 古緑が呼べば、いつの間にか津留が部屋の中に居た。

 これに驚いたのは雪野と御代、それとドウゴだけだ。

 他の面々はいたのが分かっていたかのように平常心だった。


「はっ」

「代果へ戻り、文献書を持ってくるのだ」

「御意。……それと、お耳に入れておきたいことが」

「ん?」


 全員が彼女の方に視線を向ける。

 最低限のことしか口にしない彼女が、こうして皆の前で口を開くのは大変珍しいことだ。

 古緑でさえ思わぬ言葉に若干驚いた。


 発言の許可を目線で訴えていたので、古緑は頷いて話をするよう促した。


「……赤笠流について。わかりました」

「あの異形が使っていた流派ですね」

「異形が流派を……? 初耳だ。して、その赤笠流とはなんだ」


 鍔雉の台詞の後、数拍を置いて津留は口を動かした。


「わが師、滝の父方の祖父、(から)が使っていた流派でした。つまり、人の剣術です」


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